声明 - 原水禁

「黒い雨」訴訟の広島高裁判決に対する原水禁声明

2021年07月18日

7月14日、広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」を浴びたのに国の援護を受けられないのは違法として、住民84人(うち14人死亡)が広島県と広島市に被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟の控訴審判決で、広島高裁(西井和徒裁判長)は、原告全員を被爆者と認定した一審判決を支持し、県や市、訴訟に参加する国側の控訴を棄却し、手帳交付を命じました。

判決では、「放射能による健康被害が否定できないことを立証すれば足りる」と指摘し、原告らは、雨に打たれた外部被曝と、雨に含まれる放射性物質が混入した井戸水や野菜を摂取した内部被曝により健康被害を受けた可能性があるとして被爆者に該当すると結論付けました。

国がこの間、頑なに被爆者の認定には放射線の影響を受けた科学的合理性が必要だと主張していましたが、今回の判決でも退けられました。これは、「影響が分からないから予防的に広く救うのではなく、分からないから救わないとする国の論理」を覆すもので、画期的な判断です。

このことは長崎で進められている被爆体験者訴訟(再提訴)にも大きな影響を与えるもので、長崎でも被爆地域の拡大に弾みがつく判決でした。

今回の判決に対して、原水禁として、別添の声明を発しました。残された被爆者の課題の解決にむけ、今後も取り組みを強化していきます。

 

「黒い雨」体験者を速やかに被爆者と認め、被曝地域の見直しと援護の充実を求める

 

7月14日、広島への原爆投下直後に降った、放射性物質を含む「黒い雨」を浴びたのに、被爆者として認められず国の援護を受けられないのは違法として、住民84人(うち14人死亡)が広島県と広島市に被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟の控訴審判決で、広島高裁(西井和徒裁判長)は、原告全員を被爆者と認定した一審判決を支持し、県や市、訴訟に参加する国側の控訴を棄却し、手帳交付を命じました。

判決では、「放射能による健康被害が否定できないことを証明すれば足りる」と指摘。原告らは、雨に打たれた外部被曝と、雨に含まれる放射性物質が混入した井戸水や野菜を摂取した内部被曝により健康被害を受けた可能性があるとして被爆者に該当すると結論付けました。国はこの間、頑なに被爆者の認定には、健康被害が放射線の影響であるとする科学的合理性が必要だと主張していましたが、今回の判決においてもそれは退けられました。これは、「影響が分からないから予防的に広く救うのではなく、分からないから救わないとする国の論理」を覆すもので、画期的な判断です。判決は、被爆者援護法の根底には、国が特殊な戦争被害を救済するという国家補償的配慮があり、幅広く救う趣旨に沿って定められたと確認した上で、原爆の放射能による健康被害を否定できなければ被爆者にあたるとしました。

また黒い雨は、一審に続いて国が定めた特例区域(爆心地の北西11km、南北19km)より広い範囲に降ったと判断し、特例区域外にいた原告らも「黒い雨に遭った」と認め、一審判決よりもさらに踏み込んだ判断をしました。これは昨年7月の広島地裁判決に続き、被爆者援護法の救済理念に基づき、国の援護行政の見直しをあらためて迫る内容です。

現在長崎地裁で再提訴され、進められている被爆体験者訴訟にも大きな影響を与えるものです。被爆地を旧長崎市域に限るという合理性を欠く理由で被爆者から排除された被爆体験者においても、被爆地を拡大するとともに内部被曝を認め、救済措置の実施を行い手帳の交付を認めるべきです。

一審判決後に厚生労働省は、援護の「特例区域」拡大を求める県と市の要望を受け、降雨域や健康への影響を検証する有識者検討会を設けて議論していましたが、未だに結果は出ていません。すでに広島県・市は上告に対して否定的であり、国は、県・市の意向を踏まえ上告をせず、速やかに原告を被爆者と認め、被爆者健康手帳の交付を行うべきです。

 2015年の提訴から7年近くにもなり上告は黒い雨体験者をさらに苦しめるもので許されません。高裁判決を受けいれ一刻も早く手帳を交付することを強く要望します。

 

2021年7月14日

原水爆禁止日本国民会議

共同議長 川野 浩一

     金子 哲夫

     藤本 泰成

東海第二原発運転差し止め判決に対する原水禁声明

2021年03月24日

3月18日、水戸地方裁判所は、東海第二原発について、再稼働を認めない判決を言い渡しました。原発事故が起きた際に、住民を避難させるための避難計画や防災体制が、十分整えられていないことを理由に、運転の差し止めを認める初めての司法判断でした。

これを受け、原水禁声明を発出致しましたので、ここにご案内いたします。

 

 

東海第二原発運転差し止め判決に対する原水禁声明

 

3月18日、首都東京に一番近い原発である日本原子力発電(原電)の東海第二原子力発電所(茨城県東海村)について、水戸地方裁判所(前田英子裁判長)は再稼働を認めない判決を言い渡しました。

 判決では、原発事故が起きた際に、住民を避難させるための避難計画や防災体制が、十分整えられていないことを理由に、運転の差し止めを認める初めての司法判断を示しました。判決は、原発を動かす以上、住民の生命を確実に守る必要があるという重要な課題を突きつけています。それは当然、他の原発においても避難や防災の実効性の再検討を求めるものです。

 東海第二原発では、原発から半径30km圏内に94万人が暮らし、原発で重大な事故が起きた際に、確実かつ安全に避難させることができるかが問題となっていました。

判決では「30km圏内の住民が避難できる避難計画と体制が整っていなければ、重大事故に対して安全を確保できる防護レベルが達成されているとはいえない」とし、「避難計画の策定は、14市町村のうち避難が必要な住民が比較的少ない5つの自治体にとどまっていて、人口の多い水戸市などは策定できていない。5つの自治体の避難計画も複合災害の課題をかかえている」と指摘しました。そのうえで、現在策定された避難計画も不十分として「実現可能な避難計画や実行できる体制が整えられていると言うには程遠い状態で、防災体制は極めて不十分だと言わざるをえない」と、東海第二原発の再稼働を認めませんでした。「避難・防災」体制の不備が住民に具体的危険がおよぶとして、差し止めの判断を下したことは画期的であり、他の原発訴訟に大きな影響を与えるものです。

一方で、原告が主張した「地震」や「津波」「火山噴火」などについて、「規制委員会の審査に見過ごせない誤りや欠落があるとまでは認められない」としたことには、絶対に承服できません。同日、広島高等裁判所では、伊方原発訴訟に対する四国電力の異議審において、巨大噴火や活断層の存在の可能性を退けた判決が下されました。自然災害のリスクを矮小化し、住民の安全を顧みない姿勢は、福島原発事故を経験した日本社会に、決して受け入れられるものではありません。

 これまで原発は、多重防護を前提に過酷事故など絶対に起こらないとしてきました。それが「安全神話」につながり、2011年3月11日の東日本大震災・福島第一原発事故を起こしたと考えます。多重防護が自然災害によって打ち壊された際の最後の砦が、第5層の防災体制であり、そこには実行性ある避難計画の策定が求められます。

日本では防災計画の策定は、自治体に求められていますが、狭隘な国土に人口が密集する日本においては、実効性のある避難計画の策定は、現実的に不可能と言わざるを得ません。そのことを無視し、原発の再稼働を強行することは、今回の裁判でも指摘されているように、住民の「人格権」を侵害するものでしかありません。

原水禁は、原電に対して、避難計画が現実的に不可能なことを認め、再稼働を追及せず、すみやかに東海第二原発の廃炉に踏み切ることを求めます。

2021年3月19日

原水爆禁止日本国民会議

議長 川野 浩一

 

「福島原発事故から10年」(原水禁アピール)

2021年03月11日

2011年3月11日の東日本大震災・福島原発事故から10年が経過しました。

東日本大震災・福島原発事故により、お亡くなりになられた方々に心から哀悼の意を表します。また、今もなお、かつての生活を取り戻せず、苦難の日々を過ごされている方々にお見舞い申し上げます。

福島原発事故の廃炉・収束作業は、10年が経過しても、約880トンと言われている溶融した核燃料、デブリの全貌は把握できていません。2021年中の予定とされていたデブリ取り出し開始が断念されるなど、廃炉に向けての作業は、高線量の放射線に阻まれ、困難を極めています。事故収束に向けて、最大の問題であるデブリ取り出しの具体的な工法も見えず、山積する課題に、事故後30年から40年とされた廃炉作業の「完了」は、全く見通しが立たない状況にあります。

たまり続けるトリチウムなどの放射性物質を含む汚染水(ALPS処理水)は、現在約124万立方メートルとなり、日本政府は「海洋放出」によって処分しようとの見解を発表しています。「海洋放出」ありきの議論は、福島県民・漁業従事者などを置き去りにしてすすめられています。復興に向けた、これまでの福島県民をはじめとする多くの方々の努力を水泡に帰きすような事態が想定されます。

事故から10年が経過しても、福島県では県内に7,185人、県外に2万8,505人、避難先不明者13人の合計3万5,703人(2021年2月8日復興庁調査に基づく、3月5日現在の被害状況即報[福島県災害対策本部発表])が、長期の避難生活を余儀なくされています。また、福島県内の震災関連死と認定された人は2,320人[同発表]で、前年度より13人増えています。一方、政府は、避難者の実情を考慮することなく、「帰還困難区域」の指定を解除し、補償の打ち切りや帰還政策をすすめています。被災者を社会的・精神的・経済的に追い詰め、切り捨てていく政策は決して許せません。

事故の責任の所在もあいまいなまま10年が経過しました。いくつかの裁判において、国・東京電力(東電)の責任を認める判決が出されましたが、国・東電は、その責任を果たしていないのが現状です。

東京オリンピック・パラリンピック開催に向けての「復興」のかけ声の中、事故を「風化」させ、なかったものにしようとの企図が見え隠れします。事故から10年が経過しましたが、原因究明や責任追及が終わった訳ではありません。避難者が全て帰還できたわけではありませんし、失われたコミュニティーが全て再建されたわけでもありません。そして廃炉作業が終了したわけでもありません。事故は終わっていません。今も続いていることを私たちは胸に刻むべきです。

日本政府は、脱原発を決断せず、原発再稼働をすすめ、核燃料サイクル計画を推進し、事故以前と変わらない姿勢に終始しています。そのことが、再生可能エネルギーの進捗を拒んでいます。しかし、原子力をめぐる環境は、この10年で大きく変化しました。事故当時54基あった原発は、事故後21基が廃炉となり、新規原発は立ち上がっていません。原子力政策の要と言われた核燃料サイクル計画も、高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉などによって政策の破綻は明らかです。今や原発は「廃炉の時代」を迎えています。

 原水禁は、一貫して「反原発」「脱原発」を掲げて運動をすすめてきました。私たちの力がおよばず福島原発事故を許してしまいましたが、今後の第2・第3のフクシマを止めなければなりません。原水禁は、一刻も早い脱原発社会の実現に向けて、さらなる努力を重ねることを「3.11」に改めて誓います。

 

2021年3月11日

原水爆禁止日本国民会議

議長 川野 浩一

 

 

国の責任を不問とした東京高裁判決を許さない

2021年01月24日

国の責任を不問とした東京高裁判決に対する原水禁議長声明発出について

1月21日、東京高裁は、東京電力福島第一原発事故で、群馬県などに避難した住民が、国と東京電力に損害賠償を求めた集団訴訟の控訴審判決で、国の責任を認めた一審の前橋地裁判決を覆し、国の責任を不問とした。
これを受け、原水禁議長声明を発出致しましたので、ここに掲載いたします。

 

 

国の責任を不問とした東京高裁判決を許さない(原水禁声明)

 

1月21日、東京高裁(足立哲裁判長)は、東京電力福島第一原発事故で、群馬県などに避難した住民37世帯91人が、国と東京電力に約4億5,000万円の損害賠償を求めた集団訴訟の控訴審判決で、国の責任を認めた一審の前橋地裁判決を覆し、国の責任を不問とした。一方で東京電力には、原告90人に約1億1,972万円の賠償を認めた。国と東京電力に合わせて62人、3,855万円の賠償を命じた一審の前橋地裁判決より救済範囲を広げたものの、原告の要求からは程遠い。
国と東京電力を被告とした高裁判決は、2020年9月の仙台高裁に続くものだが、国と東京電力の責任を問えるかどうかの判断は分かれた。仙台高裁の判決は、双方の責任を認めたが、今回の判決では、国の責任を不問とした。
両訴訟では、2002年7月に国の地震調査研究推進本部が公表した「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」をめぐって、津波の襲来予測と事故回避の可能性が争われた。仙台高裁の判決では、国の専門機関が明らかにした「福島沖で巨大地震が起きる可能性がある」との長期評価の信頼性を認め、東京電力と国が適切に対応していれば被害を避けられたとした。しかし、今回の東京高裁判決では、長期評価の前提となる「約400年間に3回の津波地震の発生」について異論があったほか、2002年1月に土木学会原子力土木委員会が公表した「原子力発電所の津波評価技術」の知見とも整合しないことを理由に、巨大津波の襲来を予見できなかったとし、「長期評価」の知見を前提に津波対策を講じても原発内への津波の浸水を防止はできなかったとして、「津波対策に関する国の対応に問題があったと認めることは困難だ」とした。
しかし、国や東京電力が、津波の可能性を警告する「長期評価」を無視し、経営を優先して原発事故のリスクを軽視し対応を怠ったことは事実であり、原子力災害を招いた責任から逃れることはできない。
現在20件余りにもおよぶ同様の裁判が進行し、今後も国と東京電力の責任が追及される。そこでは、当事者が真摯に責任を省みることが求められている。
原発事故被害者への賠償は、政府の原子力損害賠償紛争審査会が定めた指針に基づいて進められてきたが、今回の判決においても不十分であることが指摘された。同様の判断は、他の訴訟でも繰り返されている。事故から10年を経た現在においても、被害者の納得する賠償が進んでいなことは、きわめて問題である。東京電力は、審査会の指針以上の賠償を拒否し、原子力損害賠償紛争審査会の調停案にも異議を唱え、福島地裁の和解勧告さえもはねのける姿勢に終始し、被災者からの訴訟が相次いでいる。政府も、避難指示解除にともなって避難者へのさまざまな賠償や支援を次々と打ち切っている。避難者の置かれている実態を考慮せず、一方的に切り捨てようとする姿勢は、許せない。
私たちは、避難者、被災者への誠実な賠償と支援を強く求めると同時に、国の責任を不問とした東京地裁判決に強く抗議する。

2021年1月24日
原水爆禁止日本国民会議
議長 川野 浩一

大飯原発設置許可取り消しの判決を真摯に受け止め、直ちに廃炉を選択せよ

2020年12月08日

 12月4日、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の耐震性を巡り、安全審査基準に適合するとした原子力規制委員会(規制委)の判断は誤りだとして、福井県など11府県の住民127人が設置許可の取り消しを求めた裁判で、大阪地裁(森鍵一裁判長)は、設置許可を取り消しました。地震による原発事故の懸念に目を向けた画期的な判断で、判決では、新規制基準に基づく原子力規制委員会の判断には「看過しがたい、過誤・欠落がある」と、その誤りを強く糾弾し、国の安全審査に疑問を突きつけました。

今回の判決を受け、原水禁として声明を発しましたので、ここに掲載いたします。

 

 

大飯原発設置許可取り消しの判決を真摯に受け止め、直ちに廃炉を選択せよ(原水禁声明)

 

 12月4日、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の耐震性を巡り、安全審査基準に適合するとした原子力規制委員会(規制委)の判断は誤りだとして、福井県など11府県の住民127人が設置許可の取り消しを求めた裁判で、大阪地裁(森鍵一裁判長)は、原告の主張を認め設置許可を取り消す判断を下しました。

 東京電力福島第1原発事故を踏まえて策定された新規制基準の下で、設置許可を取り消す司法判断は初めてです。判決は、新規制基準に基づく原子力規制委員会の判断には「看過しがたい、過誤・欠落がある」と、その誤りを強く糾弾しています。地震による原発事故の可能性に目を向けた画期的な判断であり、国の安全審査の根幹に大きな疑問を突きつけるものです。

 裁判では、耐震設計の目安となる揺れ(基準地震動)の評価を基に設置を許可した規制委の判断の妥当性が大きな争点となり、その中で原告側は「基準地震動の算出で、過去の地震データの数値に平均値から外れたものなどがあるが考慮されておらず、地震の規模や基準地震動が過小評価されている」と主張しましたが、国側は「数値のばらつきを考慮する必要はない」としました。判決では、規制委が定めた審査ガイドもばらつきを考慮する必要性を示しているとして、規制委は、基準地震動を算出する地震規模の想定で必要な検討をせず、「審査すべき点を審査していないので違法だ」ときびしく指摘しています。原発の安全性をチェックする規制委の耐震設計の手法が根本から否定されました。

 2014年福井地裁が、大飯3、4号機については、「地震対策に構造的な欠陥がある」として運転差し止めの判決を出しました。その際、官房長官(当時)だった現在の菅義偉首相は「規制委が世界で最もきびしい安全基準で審査し、その結果を待って(再稼働させる)ということだ」と述べています。政府は、判決を受け止めることなく再稼働を積極的にすすめ、2017年に規制委は、新規制基準に基づき審査し安全であるとして再稼働させました。首相や規制委の姿勢が改めて問われています。

政府・規制委は、今回の司法の判断を重く受け止め、新規制基準下で許可を受け稼働している原発は直ちに停止し、すべての原発の耐震性の見直しを行うとともに、地震や活断層の問題が指摘される危険な原発は直ちに廃炉とすべきです。

現在定期検査で停止している大飯3,4号機の再稼働はむろん許されず、関西電力は、廃炉の選択をとるべきです。それが、原発マネー問題などで市民社会の信頼を失った関西電力がとるべき唯一の道と考えます。

 

2020年12月8日

原水爆禁止日本国民会議

議長 川野浩一

 

 

女川原発2号機再稼働に対する地元同意に強く抗議する

2020年11月12日

民意を無視し、強引に女川原発再稼働を進めることを許すことはできません。

原水禁は、抗議声明を発しましたので、ここにお知らせ致します。

 

女川原発2号機再稼働に対する地元同意に強く抗議する

 

 11月11日、東北電力女川原子力発電所2号機の再稼働について、宮城県、石巻市、女川町の地元三自治体の首長が「再稼働の同意」を表明した。村井嘉浩宮城県知事は、11月16日以降梶山弘志経済産業相に同意する考えを直接伝えるとされているが、「再稼働の同意」は県民の総意とは考えられない。

 東北電力女川原発は、2011年3月11日の東日本大震災に際して、5系統ある外部電源のうち4系統が失われ、残った1系統により大惨事を免れたが、場合によっては全電源喪失の事態も考えられた。重油タンクの倒壊や原子炉建屋への浸水被害、タービン周辺の損傷を受けるなど、被災した原発である。住民を放射能から守る拠点施設となるはずの原子力防災対策センターや宮城県原子力センター、モニタリングステーションも地震と津波により破壊された。女川原発2号機は、東日本大震災に際して過酷事故を起こし、福島県および周辺地域に大量の放射性物質を放出し、今なお、事故の収束もままならない福島第一原発と同じ沸騰水型原子炉(BWR)の「マークⅠ改良型炉」である。安全性に関しては、福島第一原発事故の調査結果を踏まえる必要があり、福島原発事故の全容が明らかになっていない中での同型の原発の再稼働は、多くの不安材料を残している。そもそも新規制基準は、現時点での知見に基づく基準に他ならず、将来的な「安全」を保障したものでないことは、原子力規制委員会が度々繰り返し発言している。女川原発はひずみが集中するプレート境界線に立地し、地震や津波のリスクの高さが指摘され、過去三度想定を超える地震動により揺さぶられた被災原発であり、原発建屋や原子炉などの剛性劣化が指摘される。国の地震調査研究本部の「日本海溝沿いの地震活動の長期評価」によれば、宮城県沖のプレート間巨大地震の発生確率は、今後30年で20%とされているが、M7.0~7.5程度のひとまわり小さいプレート間地震は、今後30年間で90%の確率を示している。研究者の中には、明治三陸沖地震と37年後の昭和三陸沖地震との関連から、東日本大震災の余震としてのアウターライズ型地震が今後予想されるとの指摘もあり、予断を許さない状況にある。そのような中で再稼働を認めることは、地域住民の安全の軽視と言わざるを得ない。

 菅首相は、再稼働に際し、「しっかりした避難計画がない中で、再稼働が実態として進むことはない」と国会答弁をしているが、女川原発周辺30km圏の緊急防護措置区域(UPZ)の住民や自治体は、避難計画の実効性を不安視している。地震や津波などにより孤立や通行不能などの事態に陥ることは東日本大震災で経験しており、避難路の整備の必要性については国や東北電力も認めているが、その見通しは立っていない。原発に近い寄磯地区は、陸路では避難時に原発を通らざるを得ない。安全性の高い道路整備は計画されず、住民の安全を軽視したまま再稼働を決定している。30km圏内も含め一斉避難の場合、5km圏内の約3,500人が避難するのに5日間はかかるとの宮城県の試算もある。

 宮城県の広域避難計画は、原発30km圏の約20万人が県内31市町村に避難する内容だが、受け入れ先の首長も含めその実効性に疑問を呈している。広域避難計画は、複合災害を想定したものであり、受け入れ自治体は「複合災害時は自らの住民の避難に専念する」としており、県内避難のみで実効性ある避難計画を作り上げることは物理的に困難である。しかしながら村井知事は「訓練を積み重ねることで実効性を担保する」とし、東電福島第一原発事故の反省の上に義務付けられた「広域避難計画」を、一貫して再稼働の同意要件から切り離す姿勢にあることは、住民の命を軽視するなにものでもない。

 宮城県議会は、世論調査で県民の8割が賛成していた再稼働の是非を巡る「県民投票条例案」を2019年の議会で否決しながら、2020年9月議会でも徹底した審議をすることなく「再稼働推進」の請願を採択し「再稼働の地元同意」を後押ししてきたことは、民主主義とは言えない行為と言わざるを得ない。

 村井知事は、11月9日、市町村長会議を開催し、再稼働に「賛成」「反対」も含めさまざまな意見が首長から示されたが、「近く開催する女川町長、石巻市長との三者会談での結論を、全ての市町村長の総意とする」と提案し、11月11日の地元同意に至ったものであり、県民はもちろん、原発立地周辺自治体や住民の声を反映したものではない。

 また、村井知事と立地2市町長は東北電との安全協定に基づき、原発施設の新増設に対する「事前協議」も了解する方針である。これにより、東北電力は2号機で格納容器の破損を防ぐフィルター付きベント(排気)装置を運用するための追加工事など行う事が可能となるが、宮城県においても東電福島第一原発の放射能漏れ事故による農林系廃棄物や指定廃棄物の処分を巡り、現在も住民と自治体が対立するなど不幸な事態も招いており、放射能を生活圏に放出することを義務付けた新規制基準を人道的に許すことはできない。

 村井知事は、記者会見で「原発は安定した電力供給に優れており、地域経済の発展にも寄与する」と述べているが、福島原発事故の反省に何ら立っていない。福井地裁の樋口英明裁判長は、大飯原発差し止め訴訟の判決で「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている」と述べた。そのことの意味をしっかりと受け止めなくてはならない。

 再稼働に向けた女川原発の安全対策工事は2022年度まで続く。私たちは、県民の命と安全を守る立場で被災原発の再稼働に反対し、廃炉を求めていく。

 

2020年11月12日

原子爆禁止日本国民会議

議長 川野浩一

 

福島原発集団訴訟仙台高裁判決に際しての見解

2020年10月05日

「福島原発集団訴訟仙台高裁判決に際しての見解」の発出について

 

 9月30日、仙台高裁において、福島県民および隣接する3県の住民が集団で起こした、国および東電に対する損害賠償訴訟の判決がありました。高裁判決として、初めて国の責任を明確に判定した判決として、画期的であり、また当然ともいえるものです。本判決は、今後の原発裁判に大きな影響を与えるこのとして、重要であると考え別紙の通り事務局長見解を発出しましたので、ここに掲載いたします。

 今後とも、原水禁は、被災者の側にたって、「一人ひとりの命に寄り添う政治と社会」を求めてとりくんでいきます。

 

 

 

2020年10月5日

福島原発集団訴訟仙台高裁判決に際しての見解

原水爆禁止日本国民会議

事務局長 北村智之

 

 東京電力福島第一原発事故によって被災した福島県と隣接する3件の住民約3600人が、国および東京電力に対して損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が、9月30日に仙台高裁(上田哲裁判長)で言い渡された。判決は、国と東電の責任を同等と認め、原告3550人に対して総計で約10億1000万円の賠償を命じるもので、一審の約2900人、総計5億円を大きく上回り、より救済範囲を広げたものとなっている。国と東電は、判決の意味するところをしっかりと受け止めて、上告をせずにその責任を果たすべきである。

 判決は、政府の地震調査研究推進本部が2002年に出した、福島県沖においても巨大な津波地震が起きうるとした「長期評価」を「客観的かつ合理的根拠を有する科学的知見であったことは動かしがたい」として、国と東電双方に津波の予見可能性を認め、国に対しては「不誠実な東電の報告を唯々諾々と受け入れ、規制当局に期待される役割を果たさなかった」と、その姿勢をきびしく弾劾している。国策として原発を推進してきた国の責任は免れはしない。国と東電双方の責任を認めた判決内容は、画期的であるとともに当然とも言える。

 東電の責任は、すでに地裁判決の出た16件全てで認められてきた。しかし、国の責任を問う訴訟の判決は、地裁段階で14件を数えるが、うち6件で国の責任が認められず判断は分かれてきた。責任の有無の判断は、2002年の「長期評価」による津波の予見可能性をどのように捉えるかによって変わる。東電旧経営陣が業務上過失致死傷害罪で強制起訴された刑事裁判の東京地裁判決も、「長期評価は根拠が具体的ではなく、専門家の意見も分かれ、信頼性に限界があった」として、津波の予見可能性を認めなかった。今回の仙台高裁判決は、その意味で今後他の多くの原発訴訟に影響を与えることは必至であり、原水禁は、本判決をきわめて妥当なものとして受け止め、今後の判決に活かされることを求める。

 判決は、2002年以降の国と電力会社とのやりとりを詳細に検討し、国と東電は対策の必要性を認識しながら東電の経済負担を恐れ、試算を避けその結果を隠ぺいしてきたものと判定している。これまでの原子力行政のあり方、原発運転のあり方に、猛省を促したい。また一方で判決は、賠償額・賠償の対象地域を拡大した。国は自らの過失を認めず、よって国が示してきた賠償額は低額に留まってきた。東電は、その水準を超える裁判外紛争解決手続(原発ADR)での和解案には応じてこなかった。国の言う安全を信じて、国策に協力してきた被害住民が、なぜ裁判に訴えなくては救済されないのか。国は被害住民の声を真摯に受け止め、本判決を境に、被害住民の損害賠償、生活再建にきちんとした結論を出すべきだ。

 原水禁は、福島第一原発事故から10年を経過する中で、国と東電に対し、被災者への確実な保障と将来にわたる健康不安への真摯な対応を求める。そして、国民の総意として、原発の再稼働を止め、自然エネルギーを中心にした原発ゼロ社会の実現を求める。そのために「さようなら原発1000万人アクション」に結集する市民とともに、今後も懸命にとりくんでいく。 

 

 

「黒い雨」裁判での国の控訴に対する抗議声明

2020年08月13日

「黒い雨」裁判での国の控訴に対する抗議声明

 

75年前の広島の原爆投下直後、多量の放射能を含んだいわゆる「黒い雨」によって被爆したにもかかわらず、広島市や広島県に被爆者手帳を不交付とされたのは違法として、手帳の交付を求めた訴訟(「黒い雨」訴訟)で、原水禁大会が始まる直前の7月29日、広島地裁(高島義行裁判長)は、訴えを認めて原告84人の全員に手帳の交付を命じる判決を下しました。判決は、被爆者援護区域より広範囲に降雨があったことを認め、病気の発症が放射性物質に起因する可能性があるとして、被爆者援護法の「放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」(3号被爆者)と認めたもので、これまでの国の姿勢を正す画期的な内容です。

原水禁は、長崎における被爆体験者(爆心地から12Km県内で被爆したにもかかわらず長崎市外として援護法の適用から除外された者)訴訟の支援を続けてきました。しかし、2019年11月21日、最高裁は、原告161人全員の敗訴を言い渡した福岡高裁判決を支持し上告棄却の判断を下しています。

被爆者援護法の矛盾や誤謬を正し被爆地域の拡大を求めることは、被爆者の長年の訴えでした。しかし、国は手帳交付を厳格化し被爆者の様々な訴えを退けてきました。憲法25条1・2項に規定する「福祉国家の理念」からも許されるものではありません。

湯浅英彦広島県知事は、8月4日の記者会見で「黒い雨を浴びたとの証言が一定程度矛盾しないのなら幅広く救済すべきだ」とし、控訴したくない旨を表明していました。松井一実広島市長は、8月6日の平和記念式典の平和宣言において「『黒い雨降雨地域』の拡大に向けた政治判断を、改めて強く求めます」と述べています。安倍首相は、同式典での挨拶において「黒い雨」には全く触れず、記者会見において「現在、関係省庁、広島県、広島市と協議を行っている。これを踏まえて対応を検討していく」と答えていました。

しかし、広島県、広島市の「控訴せず」の方針は国によって覆され、8月12日、国、広島県、広島市は、控訴しました。広島県・市の範囲拡大の要求に対して、加藤勝信厚労大臣は「(判決は)十分な科学的根拠に基づいていない」として、今後「黒い雨地域の拡大も視野に入れ、可能な限り検証する」としていますが、検証内容、検証結果の発表時期など全く明らかにしていません。2008年の広島県・市の調査では、「黒い雨」降雨地域は従来の約6倍としましたが、国に耳を貸す姿勢はありませんでした。控訴に関して松井広島市長は「勝訴原告の気持ちを考えると、控訴は毒杯を飲む気持ち」と述べています。控訴には国の強い意向が働いたことは明らかで、被爆者の思いを考えると許されません。国は早期に「黒い雨」地域の拡大を実施すべきであり、また、長崎における被爆体験者の被爆者援護法の適用を実施すべきです。原水禁は、控訴に抗議し、国に対して強くその実施を求めます。

日本政府は、様々な場面で「命の尊厳」を顧みなない、差別と分断の政策を実施してきました。国の安全保障や経済政策には多額の財政出動を可能としながら、個人に対する保障には消極的姿勢を貫いてきました。ポストコロナ社会では、人間の安全保障に力を注ぎ、一人ひとりの命に寄り添う社会を実現しなくてはならないと考えます。今、求められているのはそのような社会のあり方であるとの確信を持って、原水禁はとりくみを進めることを確認します。

 

2020年8月13日

原水爆禁止日本国民会議

議長 川野浩一

 

核燃料サイクル政策の破綻を認め、 六ヶ所再処理工場の建設中止を求める原水禁声明

2020年05月15日

核燃料サイクル政策の破綻を認め、六ヶ所再処理工場の建設中止を求める原水禁声明

 5月13日、原子力規制委員会は、青森県六ケ所村にある日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(六ヶ所再処理工場)が、新規制基準に適合していると認める「審査書案」を了承した。結果、国内初の商業用再処理工場として本格稼働の前提となる審査に「合格」したこととなった。

 今回の「合格」との判断に対して、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)は強く抗議し、六ヶ所再処理工場の建設中止と核燃料サイクル政策の破綻を認め、政策の根本的転換を求める。

 六ヶ所再処理工場は、当初1997年であった完工予定は、相次ぐトラブルや設計見直しなどにより、24回も延期された。その間、原子力をめぐる情勢は、大きく変化し、福島原発事故以降、原発は廃炉の時代へと移った。MOX燃料によるプルトニウムの利用も、16~18基で実施する計画が福島原発事故以降4基に留まり、高額な生産コストも含めて非現実的となっている。プルトニウム利用の前提であった高速増殖炉開発も、2018年3月の原型炉・もんじゅの廃止措置計画の決定によって、その未来は断ち切られた。

 日本原燃は、完工を2021年度上期とする目標を変えてはいないが、今後、設備の工事計画の審査、安全協定などが続くため、完工・稼働の時期の見通しは不透明であり、25回目の再延期は免れないと考えられる。その間、原発をめぐる情勢がさらに厳しくなることは確実であり、六ヶ所再処理工場の存在意義はまったく失われている。

 日本は、余剰プルトニウムを持たないことを国際公約とし、六ヶ所再処理工場では「必要以上の再処理はしない」としている。また、原子爆弾の原料ともなるプルトニウム所有は、核兵器廃絶の視点からも国際的非難を浴びている。現在所有する約46トンのプルトニウムの利用計画も立たない中では、再処理工場の稼働は見込めない。電力自由化が進む中、生産コストの高いMOX燃料では「商業」的に成り立たない。現時点での再処理工場の総事業費は13兆9,400億円と見積もられている。完工時期が延び、今後も続くトラブル、事業環境の変化を考慮すると、さらに費用が膨れ上がることは確実だ。そのツケは、高額な電力料金として、私たちに押し付けられることは明らかで、許すことはできない。

 再処理によって生み出される回収ウランの使途や使用済みMOX燃料の再処理に関しても、その方針は確定していない。未解決な課題が様々残ったままにされている。青森県や六ヶ所村との将来にむけた話し合いを基本に、いまこそ、核燃料サイクル計画からの勇気ある撤退を現実のものとしなくてはならない。原水禁は、強くそのことを求める。

2020年5月15日

原水爆禁止日本国民会議

議長 川野 浩一

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