2022年声明申し入れ

政府のGX実行会議の議論に対する原水禁見解

2022年09月05日

原水禁は、政府のGX実行会議での原発推進方針表明に対し、下記の事務局長見解を発表しました。

政府のGX実行会議の議論に対する原水禁見解

脱炭素による経済成長をめざすとした岸田政権は、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を立ち上げた。岸田文雄首相は、会議の冒頭「電力需給逼迫という足下の危機克服のため、今冬のみならず今後数年を見据えて、あらゆる施策を総動員する」と述べ、長期的な電力安定供給に向けて、①規制基準に適合した原発(5原発7基)の2023年度内の再稼働、②次世代型の原子炉の開発・建設、③原則40年の運転期間の延長などの方針を掲げ、福島第一原発事故後、「原発の依存度を低減する」としてきたこれまでの方針を180度転換した。

直近の国政選挙(参議院選挙)では、原子力政策の方針転換が争点とされなかった。国民に是非を問うこともない基本方針の転換は、おおよそ民主的な決定とは言えない。岸田政権の基本政策では「国民の皆さんとの丁寧な対話を大切に」と記載されている。今回の決定は、その「丁寧な対話」の上に成り立っているとは到底言えない。2011年3月11日のあの惨事から、多くの市民が「脱原発」の思いを表明してきた。福島県民は、司法の場で事故後の福島のきびしい生活の現状を訴えてきた。岸田政権は、その声に応えなくてはならない。

ウクライナ戦争によるエネルギー危機と電力の高騰への対応と、気候危機への対策として2050年までに温室効果ガス排出ゼロを達成することを、原発政策推進の要因と説明する。岸田政権は、「再生可能エネルギーの最大限の導入」をGX実行会議で謳い、①住宅や工場・倉庫などの建築物への太陽光の導入を促進、②定置用蓄電池の導入促進、③北海道と本州を繋ぐ海底直流送電など全国規模の電力系統整備の促進などを挙げている。しかし、福島原発事故から10年以上、これまで可能であったにもかかわらず不十分な対応に終始してきた。原発政策の再構築、既存原発の再稼働に拘泥し、再エネ導入に真摯に対応してこなかったのは日本政府だったことは明らかだ。今、本当に危険な原発を動かさなくてはならないとしたら、その責任は政府にある。

GX実行会議の内容は、どれも具体性に欠け現実的とは考えられない。2023年度中の再稼働を目標とする原発は、新規制基準に適合したものの、柏崎・刈羽原発はテロ対策の重大な不備が複数回発生し規制委員会の検査に付され、東電以外の運転主体を求める声もあがっている。東海第2原発は、周辺自治体の避難計画策定が難航し水戸地裁が運転差し止めの判断を行った。他の原発も安全対策やテロ対策の工事が終了していない。米国で認可された原発運転期間80年の例を挙げ、原発の運転期間の延長を提起しているが、規制委員会の更田豊志委員長は「地震など条件が違う。海外の条件に引きずられるべきではない」と述べている。40年を超えて運転延長を認可された美浜原発3号機は、放射性物質を含む水漏れなどトラブルが続き現在停止している。既存原発の利用をもくろむ一方で、GX実行会議の議論は、小型モジュール原子炉(SMR)や高速炉などの次世代原子炉の開発・建設を挙げている。しかし次世代炉の開発は、いまだ実証実験の段階にあって商業炉として確立しているとは言えない。その将来は不確定だ。

経産省の2030年の発電コストの試算では、原発は事業用の太陽光発電よりも高い。新増設の議論も進められているが、福島原発事故以降の安全対策強化によって、原発の建設費は高騰し続けている。トルコや英国での原発建設計画から三菱や日立などの日本企業が撤退せざるを得なかったことを忘れてはならない。日本政府が国策として原発の新増設を進めるならば、電力の高騰は現実となって日本経済を襲うに違いない。電力会社各社に、新増設への投資余力が残っているとも考えられず、建設資金の国民負担の声もあがっている。国民の納得を得られるとは思えない。その他、いまだに稼働しない再処理工場と高レベル放射性廃棄物の最終処分の問題も残っている。GX実行会議における原発推進の議論は、その実現に対する現実的根拠に乏しい。

大島堅一龍谷大学教授は、「原発は建設から稼働、廃炉完了まで100年かかる。短期で変動する足下の資源価格を基にした判断は、再生可能エネルギーなど他の投資への選択肢を狭めてしまう」と述べている。原水禁は、脱原発の方針確定が再生可能エネルギーの進捗を呼ぶと訴えてきた。2011年以降も原発再稼働の余地を残してきた中途半端な政策が、再生可能エネルギー政策の停滞を生み、「カーボンフリー」を掲げながら新規石炭火力発電所の建設を許すような現状をつくってきた。「脱原発」を明確な方針として再生可能エネルギー推進にあらゆる政策を結集しなくてはならない。脱炭素社会の実現と安定的な電力供給に必要なのは、原子力の活用ではない。原水禁は政府の原発推進の方針の撤回を強く求め、「脱原発」の確立に向けて市民社会と連帯してとりくみを一層強化する。

2022年9月5日
原水爆禁止日本国民会議
事務局長 谷 雅志

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