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原水爆禁止世界大会・長崎大会 基調提案

2018年08月07日

原水爆禁止世界大会・長崎大会 基調提案

原水爆禁止世界大会実行委員会
事務局長 藤本泰成

さる7月4日、名古屋高裁金沢支部、内藤正之裁判長は、2014年5月に、福井地裁樋口英明裁判長の「大飯原発の運転差し止めを命じた判決」を取り消し、「大飯原発の危険性は社会通念上無視できる程度にまで管理・統制されている」として、住民側逆転敗訴の判決を言い渡しました。
朝日新聞のインタビューに応じた、大飯原発の運転差し止めを命じた元福井地裁裁判長樋口英明さんは、「今回の判決の内容を見ると『新規制基準に従っているから心配ない』というもので、全く中身がない。不安は募るばかり」とし、日本の原発の現状を「小さな船で太平洋にこぎ出しているようなもの、運が良ければ助かるかもしれない。一国を賭け事の対象にするようなことは許されるはずもない」と答えています。
「基準値振動などと言う将来の地震規模の予測は仮説に過ぎない。それを原発の耐震性の決定に用いることは許されない」そして「地震の問題は、高校時代に習った知識でも十分理解できる。必要なのは良識と理性」と言いきっています。
控訴審判決が用いた「社会通念」という言葉は、「社会一般で受け容れられている常識または見解。良識。」と辞書にあります。良識を持ってして、なぜ原発の危険性が理解できないのか、不思議でなりません。市民社会の大半が「原発は危険」「原発はない方がが良い」と考えている現状にあって、福島原発事故前の「安全神話」を再びまき散らかそうとする控訴審判決は、きわめて犯罪的と言えます。
今年6月14日には、福島第二原発4基の廃炉に向けた検討に入ることを、東京電力が表明しています。福島第二原発の廃炉決定で、既に廃炉が決定している福島第一原発と合わせ、福島県民が熱望してきた「原発のない福島」が実現したこととなります。さようなら原発1000万人アクションを組織して「脱原発社会」を求めて来た、私たちは、「全基廃炉」の決断を、歓迎したいと思います。
しかし、福島の現状は楽観できるものではありません。溶融した核燃料の取り出しには技術確立のめどもたたず、放射性物質トリチウムを含む汚染水は貯まり続けタンクは設置する場所も少なくなってきています。事故収束への費用の見積もりは現時点で約22兆円、今後の増大も予想されます。事故は、きわめて危険な状態で継続しているのです。
避難指示が解除されても、雇用や教育、病院や様々なインフラの不足、年間被ばく量20mSvと言う高線量、それ以上に除染されていない野山、様々な要因から帰還した住民は全体の15%程度となっています。子どもの健康調査では、199人が甲状腺がんまたはがんの疑いとされ、163人が手術を受けています。健康不安も大きくなっています。
帰還を強要するかのように、補償の打ち切りが図られました。日常生活の全てを奪われた住民は、十分な補償と支援を求めて全国で裁判に訴えています。その背景には、「裁判外紛争解決手続」に応じない東電の姿勢と帰還を強要し事故の社会的収束を図ろうとする国の姿勢があります。
昨年7月7日、国連加盟国193カ国中122カ国の賛成をもって、核兵器禁止条約が採択されました。広島、長崎の被爆者の、自らにむち打ち、訴え続けてきたことが、「核兵器のいかなる使用も人道の諸原則および公共の良心に反する」とした、核兵器禁止条約の採択に結実したものと考えます。
条約には7月末までに14カ国が批准していますが、しかし、日本政府は、条約に反対しています。安倍首相は、8月6日、広島において「条約に反対する核保有国と非核保有国の橋渡し役を果たす」と述べていますが、しかし、具体的策には全く触れませんでした。日本政府の態度は、被爆者の思いを踏みにじるものです。
6月12日、米国と朝鮮民主義人民共和国との、歴史的首脳会談が開催されました。朝鮮半島の非核化への両国の責務が確認され、新たな歴史が動き出しました。原水禁運動が主張してきた「東北アジア非核地帯」が現実的なものとして考えられる状況です。朝鮮半島の非核化への道のりは容易ではないと思いますが、粘り強く平和への話し合いを積み上げることが重要です。
米国の朝鮮政策に迎合し、「制裁の強化」のみ主張してきた日本政府は、朝鮮半島の大きな動きに対応することができていません。あれだけ宣伝してきた朝鮮のミサイルの脅威と防災訓練は取りやめ、全く口をつぐむ状況となっています。
また、トランプ政権の、核兵器の新たな開発と更新、使用条件を緩和しようとする「核態勢の見直し」に大きな賛辞を贈り、核兵器廃絶に全く反する行動を取っています。高速増殖炉実験炉もんじゅの廃炉で、破綻した核燃料サイクル計画に拘泥し、プルトニウム保有を継続することで「潜在的核兵器保有」の政策を継続しようとしています。
本土返還にあたって、非核三原則に反する核持ち込み容認の密約もあった沖縄県では、辺野古新吉建設をめぐってきわめて緊迫した場面に至っています。今日の報道では、8月17日に予定される埋立のための土砂搬入をもくろみ、埋立承認撤回の聴聞を引き延ばそうとしている沖縄防衛局に対して、県側が拒否の回答をしたとされています。第2次大戦後、沖縄の米軍基地が、沖縄県民の命をまもったことがあったでしょうか。沖縄県民の「本土並み返還」という思いは、「基地なき沖縄」の思いは、踏みにじられてきました。米兵による凶悪犯罪、戦闘機などの墜落事故、沖縄県民の命は、米軍基地によって常に危険にさらされてきました。
戦争によって、原爆によって、原発によって、そして基地の存在によって、私たちの命は踏みにじられてきたのです。
皆さんご存じでしょうか。沖縄の慰霊の日に読まれた、浦添市港川中学校3年生の相良倫子さんの詩を、少し紹介させていただきます。
私は生きている。/マントルの熱を伝える大地を踏みしめ/心地よい湿気を孕んだ風を全身に受け/草の匂いを鼻孔に感じ/遠くから聞こえてくる潮騒に耳を傾けて/私は今、生きている。
戦争を知らない14歳の「私は今、生きている」と言う言葉と、8月6日の広島にさまよった故森滝市郎原水禁議長の「人類は生きねばなりません」と言う言葉。
戦後73年を経てつながる言葉。私はこの繋がりに、「核も戦争もない21世紀」の実現を想像しています。
幼子の泣き声/燃え尽くされた民家、火薬の匂い/着弾に揺れる大地、血に染まった海/魑魅魍魎の如く、姿を変えた人々/阿鼻叫喚の壮絶な戦の記憶/みんな、生きていたのだ/私と何も変わらない/懸命に生きる命だったのだ/
戦争を知らない14歳の、たくましい想像力に、心から敬意を表わすとともに、私たちの世代の責任に、心痛めなくてはなりません。
この長崎大会の3日間を、皆さんどうか「生きている」自分を感じながら、「いのち」から多くのことを想像し、考えていきましょう。
3日間、皆さまには真摯な議論をお願いして、基調の提案とさせていただきます。

 

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