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被爆69周年原水禁世界大会・長崎大会のまとめ(藤本泰成・大会事務局長)

2014年08月09日

大会への参加、そして積極的な議論をありがとうございました。二つの視点からまとめ、報告させていただきたいと考えます。

 「核と人類は共存できない」私たちは、全国組織としては唯一「核の商業利用」原子力発電所に反対してとりくみを進めてきました。福島原発事故の現実と不幸にも遭遇した私たちは、脱原発へのとりくみを進めてきたからこそ、そのことを止めることのできなかった自らを、忸怩たる思いで見つめてきました。そして、深い絶望感さえ感じつつ、しかし、ここを出発点に二度と繰り返すことのないよう「さようなら原発1000万人アクション」の運動をスタートさせました。その運動は、多くの市民の賛同を得て17万人を集める集会、840万を超える署名を集めています。市民社会の求める方向は「脱原発」であることは明確です。
 長崎大会の第2分科会では、原子力資料情報室の澤井正子さんから現在の福島第一原発の現状報告がありました。澤井さんが示した、環境中にどのように放射性物質が放出されたかというシュミレーションを見ると、その7割以上が偏西風に乗って太平洋上に飛散したことが分かります。これが、日本列島の西側、つまり福井県の大飯や高浜原発であったり、島根、玄海、川内などの原発であれば、もっと大量の放射性物質が列島を覆っていたに違いありません。
 現在、福島第一原発では、単に再臨界しないように冷却を続けるだけで、溶融した燃料さえどのようになっているか分かっていません。建屋周辺は、現在も0.85mSv/h、居住制限区域に指定される年間被曝量の20mSvを1日で超えるものです。建屋内は高いところでは4780mSv/h、1時間で半数が死亡すると言われる4Svの被曝量になります。
 現在も放射性物質は放出され続けています。また、冷却に使用した汚染水は、どんどん増加しタンクを作る場所も残り少なくなっています。流れ込む地下水の処理のめども立っていません。帰還のための除染作業で出る廃棄物は、大きな袋に包まれたままで、一時保管場所に野積み状態です。 楢葉 富岡 大熊 双葉 浪江 これらの自治体は、いわき市や郡山市、二本松市、会津若松市などに間借りをしています。町役場自体が避難をし、コミュニティーが破壊されてしまっています。
 「美味しんぼ」という漫画の、放射能によって鼻血が出て止まらないという表現に、政府や自治体からクレームがつきましたが、澤井さんは、自分も 子どもの鼻血が出て止まらないと言う相談を受けた 原因は分からない、だから調べるのが当たり前ではないか、それをやらないのは、フクシマの被災者の切り捨てなのだと、国が支援していこうという思いがないから、やらないのだと、怒りをあらわに述べました。
 被爆者の健康被害に対して、「放射能との因果関係」という言葉をよく聞きます。「因果関係が証明できないから、原因ではない」というのは実におかしい、「因果関係がない、と証明できないのなら、原因である可能性は否定できない」のです。つまり、事故を起こした責任ある方が、因果関係がないことを明らかに納得できるように証明し説明すべきではないでしょうか。
 放射能に起因する可能性が1%でもあるのならば、補償すべきであり、調査すべきなのです。それは、子どもたちの甲状腺癌の問題についても同様であるべきと考えなければなりません。
 東京新聞に掲載された、「さようなら原発」の呼びかけ人、坂本龍一さんの言葉です。「津浪が押し寄せた海岸に立って、自然の力を思い知ると同時に、波や風、太陽といった自然の力を活用しない手はない、とも考えました。人間は、原発という大変なものをつくり、使ってしまいました。原発を推進してきた人、推進しようとしている人に、被災地の現実を見てもらいたいと思います」。
 原水禁の顧問で、明治大学名誉教授の藤井石根さんは、脱原発を決めてるドイツより、緯度の低い日本の方が、海洋国日本の方が、明らかに自然エネルギーのポテンシャルは高い。「脱原発」には自然エネルギーへの転換が必要で、農業と発電を同じ場所で展開するソーラーシャーリングなどを紹介しながら、複合的に、そして地域を結んで、自然エネル
ギーを展開すれば、安定的供給が可能になると、エネルギーの将来を語りました。これらの方向性を示すのが政治家なのだ、原発は経済的に成り立たない、安倍首相に責任をとる覚悟ができているのかと厳しく問いました。
 今年の原水禁大会開催の1ヵ月前の、7月1日、安倍首相は、集団的自衛権行使容認の閣議決定を強行しました。69年間、一度も引き金を引くことなく平和国家の信頼を重ねてきた日本が、とうとう、戦争への道に踏み出そうとしているのです。米国最大の平和団体「ピースアクション」から参加していただいた、ポール・マーチンさんは、財政問題を抱える米国は、防衛費の削減が喫緊の課題であり、核兵器へのコストなど保守派からも懸念が表明されていると報告され、オバマ大統領の核廃絶などへの姿勢は正しい、スピードアップは可能だが、どこまで彼の時代にできるかが問題と発言しました。
 また、平和憲法制定に協力したのは米国だが、東西冷戦時代から日本へ軍事的支援を要請し続けてきた。イラク戦争やアフガン戦争の際にも支援を要請した、米国政府は9条の解釈変更を歓迎していると指摘し、日本の軍事的関与は、米国内の軍事面への圧力の緩和と安全保障への財政削減にも繋がっているとしました。
 イラク戦争やアフガン戦争に参加をすることはないとする安倍首相の発言のには信憑性がありません。軍事評論家の前田哲男さんが指摘したように、新ガイドラインにおいては、装備なども含め、より米軍との一体性が強調されて行くに違いありません。
 沖縄平和運動センターの岸本さんからは、辺野古新基地建設の緊迫した状況が報告されています。何が何でもの姿勢が見えてきます。誰が反対しようが、沖縄県民が何を言おうが、耳を貸さない強硬姿は民主国家の政府とは呼べないものです。
 岸本さんが「辺野古殺人鉄板」と指摘したキャンプシュワブのゲート前に敷かれた鉄板は、琉球新報が以下のように表現しています。「国策に抵抗する者は負傷しても、死んでも構わないというのか。県民の生命を差し置いても普天間飛行場の辺野古移設を強行しようとする政府の手法に怒りを覚える。沖縄防衛局がキャンプ・シュワブのゲート前に三角形の突起が並んだ鉄板を設置した。」
 集団的自衛権行使で、自衛官の戦闘に参加するリスクは特段に高まったが、安倍首相は、一度も自衛官の死に言及したことはありません。戦争はテレビゲームではありません。誰かが命を失う可能性があります。国のためなら自衛官一人の命など、ものの数ではない。だから、反対運動に参加する市民の前にも「殺人鉄板」を敷くことができる。これが、今の日本政府の姿勢なのです。
 原水禁大会の福島大会の提起で、「私の個人主義」という夏目漱石の講演の一部を紹介させていただきました。1914年、ちょうど100年前の話です。学習院で講演した漱石は「国家的道徳というものは個人的道徳に比べると、ずっと段の低いもののように見える事です。元来国と国とは辞令は(つまり挨拶ですが)いくらやかましくっても、徳義心はそんなにありゃしません。詐欺をやる、ごまかしをやる、ペテンにかける、めちゃくちゃなものであります」と話しています。
 私たちは、安倍晋三の詐欺やごまかしを許してはなりません。私たちが持つ道義心、それは「平和」であり、「脱原発」です。私たちが、安倍首相よりずっと高い位置での道徳を持っていることは明らかです。
 一人ひとりの命が大切です。国民の生命や財産を守るために、国のエネルギーを確保するために、誰かが犠牲になってはならないのです。国が個人の犠牲の上に成立してはならない、一人ひとりのそれぞれの命には、何が大切かは明らかです。
 8月6日の朝日新聞は、「日本人は未来永劫に 核にアレルギーを持って」「命守るために『さよなら原発』」と題し、女優の吉永小百合さんのインタビューを掲載しました。吉永さんは「原子力の発電というのは、特に日本ではやめなくてはいけない。これだけ地震の多い国で、まったく安全ではない造り方、管理の仕方をしているわけですから。どうやって廃炉にしていくかを考えないと」と発言しています。
 人間としての良心の、当たり前の言葉ではないでしょうか。当たり前のことを当たり前に言う、当たり前のことを当たり前に行う。私たちは、当たり前の原水禁運動に、胸を張ってがんばっていきたいと思います。
 来年は、NPT再検討会議の年、そして、被爆70年、原水禁運動50年の節目の年です。この一年、全力でとりくみ、多くの成果を持って、また、会いましょう。

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