ニュース声明申し入れ

【「放射線副読本」問題】文部科学省へ要請を行いました

2012年04月11日

 平和フォーラム・原水禁は4月6日、「放射線副読本」問題について、文部科学省に対する要請をおこないました。藤本泰成事務局長より要請文書(資料参照)を、文科省の高山宏・研究開発局原子力課立地地域対策室室長、立元長・同局開発企画課専門官に手渡したのち、若干の意見交換をおこないました。そのなかで担当官が明らかにした内容の要点は以下のとおりです。

・「放射線副読本」作成ははじめての試みである。
・子どもが自ら判断する上で必要な基礎的知識を養うことが「副読本」の目的である。
・「副読本」は、全国標準のモデル教材として作成したものであり、立地県など地域によっては内容的に不足することもあるに違いない。
・各都道府県教育委員会からの要請に基づき送付するものであり、使用を強制するものではない。
・現場で指導にあたる教員をはじめ、寄せられるさまざまな意見を反映させながら、よりよいものとしていきたい。その一環として本日の要請も受け止めている。
・改善する作業のなかで解説・資料の追加の検討などについても考えうる。
 
 平和フォーラム・原水禁としては、当面、各都道府県教育委員会に対して「副読本」に依拠した一方的な教育指導を教員に強制しないよう要請するとりくみをすすめていきます。
 また、「副読本」の問題性を明らかにしながら、現場でも活用しうるような追加資料の作成などについても追求していきたいと考えています。
 
《資料》
2012年4月6日
文部科学大臣
平野 博文 様
フォーラム平和・人権・環境
原水爆禁止日本国民会議
事務局長 藤本 泰成
 
放射線副読本に関する要請について
 
 3月11日の東京電力福島第一原発事故にともない、文部科学省が2011年10月14日に作成した「放射線副読本」は、「はじめに」の部分で福島原発事故に触れながら、しかし「放射線は昔から身の回りにありながら」「放射線によって人の体を切らなくても骨の様子を見ることが出来るようになった」「左ページは、スイセンから出ている放射線」「目には見えなくても、私たちは今も昔も放射線がある中で暮らしています。」など、自然界の放射線と福島原発事故で放出された放射性物質による放射線を混同するかのような内容になっています。また、「放射線はどのように使われているの?」まず放射線の利用価値を解き、「身近に受ける放射線の量と健康」では、「100ミリシーベルト以下の放射線を人体が受けた場合、放射線だけを原因として癌などになったという明確な証拠はありません。」としています。がんになった明確な証拠はないということは、癌にならないということではありませんし、放射線自体ががんを誘発するとしてきびしい管理の下で利用されていることを忘れてはなりません。エックス線検診が女性や妊産婦に与える影響や、放射線管理区域で作業するものの安全性などにも言及されていません。別紙に記載したとおり、この副読本は問題であると言わざるを得ません。
 全体を通じて、この「副読本」は、放射線の利用を肯定的に捉えるという姿勢に貫かれており、放射線の持つ負の側面に光が当てられていません。このような問題点は、中川正春前文部科学大臣が「不適切」と述べているように、電力会社とつながる「日本原子力文化振興会」に、その作成を委託したことによるものと考えられます。
 私たちが直面している課題は、福島県における原発事故によって放出された放射性物質の汚染問題です。その問題を抜きにして、福島県の子どもたちに放射線を教える意味がどこにあるのでしょうか。福島の子どもたちは、震災から1年たった現在でも0.5~1.0μSv/hという平常値の20倍近い放射線量の中で暮らしています。また、放射線量の高い避難地域から避難してきた児童・生徒も多数存在します。これらの子どもたちはこの副読本を読んでどの様に感じるでしょうか。また、避難せざるを得ない生活をどのように理解するのでしょうか。この副読本は多感な子どもたちの感情と、福島の子どもたちの現状に寄り添って考えさせようとする視点はありません。放射性物質を含んだ震災によるがれき処理の問題が浮上していますが、この副読本では扱われていません。原子力発電所が出す使用済み燃料など、放射性物質の問題にも触れていません。原子力利用のマイナス面に触れずに放射線問題を語ることは出来ません。高校生用では、末尾に放射線のリスクとベネフィットについて書かれていますが、原発事故による放射線のベネフィットは何か、それが発電というベネフィットに対するリスクだとするなら、そのことをしっかりと記載し子どもたちが考えることの出来るようにすべきです。エックス線撮影やCTなど放射線そのものにだけに限定した書き方は現実を理解させることにつながるものではありません。
 福島原発事故で大量の放射性物質が放出され、未だ故郷へ帰還できず避難を強いられている大勢の人々が存在すること、事故を起こした原発の収束・廃炉への作業が思うように進展せず、これから何十年もメルトダウンした燃料を回収できないことなどを考えれば、そのような原発事故の状況に触れないわけにはいかないと考えます。福島の子どもたちが、この「副読本」を読んで、どのように自ら置かれている状況を理解するのでしょうか。平和フォーラム・原水禁は、そのことに大きな危惧を抱くものです。
 よって、小学校児童用「放射線について考えてみよう」、中学校生徒用「知ることから始めよう放射線のいろいろ」、および高等学校生徒用「知っておきたい放射線のこと」の三つの「副読本」に関して以下の通り要請いたします。
 
要請事項
(1)三つの副読本を、文部科学省の責任で回収して下さい。
(2)回収が困難であれば、以下の内容を含む補助資料を配付して下さい。
  ①福島事故の現実を記載して下さい。
   ⅰ.避難地域と避難生活の現状、子どもの学校生活の現状とこれまでとってきた安全対策。
   ⅱ.福島第一原発の現状と問題点、今後取り組まなくてはならない事項
   ⅲ.放射性物質を含む農産物や瓦礫処分の問題
  ②原子力発電などで生じる放射性物質の問題点を記載して下さい。
   ⅰ.ウラン採掘現場の放射性物質汚染と健康被害
   ⅱ.原子力発電所使用済み燃料などの最終処分と放射能の問題。
   ⅲ.「一般公衆の年間線量限度」や「放射線障害の防止に関する法律」「電離放射線障害防止規則」などに関わる安全対策とその理由について。
   ⅳ.食品に関する放射性物質の基準等の考え方について
 

TOPに戻る