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【ニュースペーパー2011年6月号】原水禁関連記事

2011年06月01日

●「エネルギー大消費社会」転換が進むべき道
元京都大学原子炉実験所講師 小林 圭二さんに聞く

●東電社長発言・県知事や市長も不快感を表明
柏崎刈羽原発3号機「年内再開」を撤回せよ

原水爆禁止新潟県協議会 事務局長 中村 進

●世界の核兵器の状況を考える(2)
削減されない米ロの核戦力

●《各地からのメッセージ》
住民パワーで今こそ、脱原発社会の実現を

フォーラム平和・人権・環境しまね  事務局長 古川 輝雄

●福島を「原発震災」が襲った
県内に広がる汚染への恐怖と不安

福島県平和フォーラム 事務局次長 國分 俊樹


「エネルギー大消費社会」転換が進むべき道

元京都大学原子炉実験所講師 小林 圭二さんに聞く

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【プロフィール】
1939年中国・大連市生まれ。京都大学工学部原子核工学科卒、京都大学原子炉実験所助手、同講師。原子力発電の実用化に夢を抱き原子力を専攻、原子力開発研究者の道を歩み始めたが、70年代前半、四国電力伊方原子力発電所1号機建設に反対する住民訴訟の支援を契機に原発反対へと舵を切る。2003年定年退職後も、精力的に研究や講演活動などを続けている。著書に「高速増殖炉もんじゅ 巨大核技術の夢と現実」(七つ森書館)、「原発の安全上欠陥」(共著・第三書館)など。

──小林さんが原子力に携わることになったきっかけは何ですか?
 私が大学を受験したとき、「原子核(原子力)工学」と銘打っていたのは、全国でも京都大学工学部しかありませんでした。当時はまだ、日本には商業用の原子力発電所は1基もなく、アメリカで試験的な小さい原子炉が動き始めたくらいで、原子力利用に対しては、明るい夢しかない時代です。そこに夢と希望を抱いて選んだ分野ですね。大学卒業後は原子炉実験所に入り、原発開発の研究者になりました。

──それがなぜ原子力に対し疑問を持つようになったのでしょうか?
 研究者としての道を歩む中で、原子力に対して「輝かしい未来のエネルギー」として希望を持つ一方で、放射性廃棄物の処分方法が確立されないまま、見切り発車してしまってもいいのだろうかという疑問は漠然としたものとしてありました。そこに60年代末の全共闘運動や日本各地で噴出していた公害問題に対する運動が巻き起こり、自らの行っている「学問」というものについて問い返す、大きな契機となりました。
70年代に入ってまもなく、伊方原発1号機の行政訴訟が始まりました。現地の住民たちは、それまで土地問題を根拠に闘ってきたものの挫折し、原発そのものの安全性を真正面から問う闘いとして裁判闘争に入りました。そのとき久米三四郎さん(元大阪大学講師・故人)や荻野晃也さん(元京都大学工学部講師)を通じて、研究者に対する裁判への支援の呼びかけがありました。
話を聞く中で、愛媛県における行政の強権的体質、四国電力のカネの力が相まった、かなり悲惨な現地の状況を知ることになりました。住民たちは建設が強行される中でとことん追い詰められて、自殺者まで出ていたのです。
私はその時点では、原子力が将来的にものにならない技術だとは、必ずしも思っていませんでした。ですから「反原発」というよりも、権力やカネをかさに着た態度に対する反発をきっかけにして、住民たちを応援しなくてはいけない、そのために私の原子力の知識が活かせるのなら、という気持ちで関わるようになりました。

──推進派の研究者が圧倒的多数ですが、なぜ「反原発」の立場を選択されることになったのでしょうか?
 そもそも原子力開発は国のプロジェクトであるからこそ初めて存在し得る学問です。原子力の専門家にとっては、自分の存在がかかっている以上、国の原子力政策を擁護するのはむしろ必然と言っていいでしょう。全共闘運動の中でも、自分の専門分野については深く知っていても、そこから外れたことに対してはまるで知らないし、関心もないという研究者の態度が批判されていました。私自身、そういう狭い範囲でしか考えることのできない研究者であったわけですが、原発というのは、例えば学問領域でざっと分類してみても、原子核工学、電気工学、機械工学、化学などが関わってきます。もちろん放射線の影響については医学や生物学です。このように非常に広範囲な分野の集積によって成り立っているものなのです。だから専門家というのは、実は原発の全体像が見えていない。原発というものをトータルなものとして見るという視点を、専門家はそもそも持っていないのです。
ところが伊方原発の裁判では、様々な分野の専門家が一堂に会し、一緒に議論しました。そこで初めて広い視野で原発を捉えることができたわけです。例えば、放射能の被害は急性のものだけではなく晩発性障害もある。閾値(しきいち・ある反応を起こすための最小値)があるのではなく、どんな少量であってもそれに応じたリスクがある、といったことを知りました。そうした中で私が痛感したのは、原発というものが、本質的に人類と相容れないものである、ということです。

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損壊の激しい福島原発建屋(東京電力海外プレス向けHP)

──福島第一原発事故は国際原子力事象評価尺度(INES)のレベル7と認定されました。
まず、この評価尺度が放射能の放出量だけで決められていることに問題があります。これではどうしても結果論に陥りがちです。事故の重要性というのは、どういう危険性がどれだけ存在したか、最悪の事態へどのくらい接近したのか、そういった潜在的な危険性の大きさを見なくてはなりません。そのことを踏まえた上で、最悪のレベル7と評価されたことは、あの事故の経過から言って当然だと思います。
スリーマイル島原発事故では電源喪失していません。条件としてはずっと「楽」なのです。福島第一原発では全電源を喪失しています。その上、4機同時に原子炉のみならず使用済み燃料プールでの事故まで起こっているわけですから、事故の幅広さからみても、ケタ違いの規模です。

──電力会社は今回の事態を「想定外」としていますが、安全対策に問題はなかったのでしょうか?
初めから、本当の意味での安全性は考えられていないのです。「想定内」であるべき自然災害を「想定外」と設定したことは、もはや人災であると考えています。伊方の裁判でも問題になったのは、地震が来たときに発電所はどうなるのかということでした。電力会社は「非常電源は複数あるから1台故障しても大丈夫」という論理ですが、同じ場所に同じ構造物があれば同時に故障すると見るほうが、むしろ自然で合理的な想定であると言えます。学術的には「共通モード故障」と言い、いわゆる共倒れの状態です。
しかし津波や地震で、一方は壊れて他方は生き残るという、非合理な想定に立った上での安全審査がまかり通っています。これは歴代の裁判でもそうだし、浜岡原発についてもそうです。
実は90年代の女川原発の調査報告でも、869年に東北地方に大きな津波被害をもたらした貞観地震のことが取り上げられています。さらに2009年、岡村行信さん(産業技術総合研究所活断層研究センター長)に安全対策の必要性を指摘されているのにもかかわらず、それを無視しておいて何が「想定外」でしょうか。このように、電力会社の行ってきた安全対策というものが、自分たちの都合に合わせたシナリオに沿ったものでしかないのですから、実際の役に立つわけがないのです。
今回これほどまでの大きな事故になった一方で、しかし、「これほどで済んでいる」のは、スリーマイル島での事故を教訓としたシビアアクシデント(過酷事故)対策があったからなのです。日本を含め世界のどの国でも「格納容器は絶対に壊れない」という安全対策の大前提がありましたが、スリーマイルで格納容器が壊れるようなこともあり、それを受けてアメリカ原子力規制委員会(NRC)がシビアアクシデント対策を義務付けたのです。

──その対策には、具体的にどのようなものがありますか?
代表的なものがベント(緊急用の排気弁)です。多少放射能が漏れてしまってでも、より大きな形で放射能が漏れる事態を防ぐためにはやむを得ないということでベントをつける。もう一つは消防の設備を炉心の注水に転用可能にすることを義務付けたのです。ヨーロッパでもそれに倣って対策を行いました。
ところがそのとき、日本ではそういうことは起こらないとして対策に動きませんでした。ずいぶん後になって、電力会社の自主的判断で対策することを勧める、としました。他国の大事故の教訓にも学ぼうとしない、日本だけは特別だという思い上がった発想で、そこには安全思想なんて存在していません。描いたストーリーどおりの「安全対策」で済ませるという形式的なものでしかないのであって、実質的な安全対策としてそもそも体をなしていないのです。そのことを今回如実に示したのは、これまで説明されてきた「安全対策」が一切役に立つことがなく、ただ唯一役に立ったのが、シビアアクシデント対策だったということです。今回、非常用炉心冷却装置(ECCS)が動かなかったものの、炉心に海水を注入できたのは、このシビアアクシデント対策のおかげなのです。
しかし、東電は燃料が露出してから海水注入を決断するまでに約20時間かかっています。これが決定的な失敗です。スリーマイル島原発事故では、燃料棒露出から約100分間で炉心溶融に至りました。東京電力は海水を入れたら原子炉として二度と使えないから、財産の損失をためらっていたのでしょう。
しかも1号機でこういう事態に陥った以上、同じ経過をたどることが予想されるのだから、同時に2、3号機にも注入するべきだったのですが、そうしなかった。地震には耐えたが、津波によって破壊されたから今回の事態に至ったという電力会社の説明には疑問があります。

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巨大な塔が印象的なスリーマイル島原発(47News HP)

──政府や東電の情報公開についてはどう考えておられますか。
例えば水素爆発が起こっていますが、水素は配管が健全であれば建屋内に溜まることがないはずです。したがって地震の段階で大きなダメージを負っている可能性が高いと思います。また、地震のあと、運転時70気圧くらいの原子炉の圧力が一桁にまで急激に下がりました。田中三彦さん(サイエンスライター・元原発技術者)によれば、このとき配管が破壊されているのではないかということです。少なくとも今ある情報からすれば、地震には耐えることができたとは言うことができないと思います。
また、自動停止機能は働いたと言っていますが、これだって制御棒がしっかり全部挿入できていたかは保証の限りではありません。核分裂の反応は低下したかもしれないが、現時点の情報では、再臨界を起こしていた可能性も全く否定することはできないと思います。彼らの言ってきた「止める・冷やす・閉じ込める」の「止める」の段階すら、成功したのか疑問が残ります。
恐ろしいことは、事故についての詳細情報がまともな形で出てこないことです。唯一記者会見がありますが、これも記者クラブによって統制されています。本来は日々原発の情報に接している記者が自由に質問できるような場でなければ、ろくな情報は出てこないでしょう。今までの事故であれば、現場に記者用の部屋が設けられて、各社が発電所の職員たちに直接取材できたことを考えると、現状は極めて異常な情報管理の状態であると思います。

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東京では毎週のように脱原発集会やデモが開催されている
(4月24日・東京・芝公園)

──このあと事故を収束させるためにはどうすべきでしょうか?
 長期化させないためには、とにかくこれ以上燃料を溶けさせないことです。燃料自体は元々、溶けにくいものですが、そうであるがゆえに一度溶けてしまったら手の施しようがありません。溶ける兆候が現れたらすぐに対応しなければなりません。

──政府の放射能汚染対策についてはいかがですか?
 放射線量基準の引き上げなど、非常にご都合主義的です。平常時と事故時で基準を分ける考え方は昔からありましたが、それは緊急作業をする人に限った話で、一般市民に対して安易に緩めることはよくないですね。そうであるならば避難させるべきです。
最近、内閣参与を辞任した小佐古敏荘さん(東大大学院教授)は原発推進派として有名で、シンポジウムなどではたびたび対決してきました。とくに上関原発の設置に関しては際立った推進側として発言してきた人物です。
しかし彼の今回言っていることはそのとおりで、大人と子どもを同一のレベルで見るのは愚の骨頂です。発ガン率という意味で言えば、同じ被曝量で一桁違うと見ていいでしょう。もはや別の問題として考えるべきです。

──政府の原子力利用政策についてはどのようにお考えですか?
 実態はすでに崩壊しています。六ヶ所再処理工場一つとっても、高速増殖炉が動かない以上、全く必要ないものです。それを取り繕うためにプルサーマルをやっているわけですから、無駄に無駄を重ねているにすぎません。プルトニウム利用はただ危険性を高めるだけですから、リスクを考えてもやるべきではありません。そもそも高速増殖炉は実用化できないと考えています。それは危険性のみならず核拡散の問題もありますし、危険なナトリウムを冷却材に使用しているために、ひとたび問題が発生すれば検査による長期停止を余儀なくされるのですから、商業的にも成立し得ないものなのです。
それでもなぜ、これほどまでに固執するのかと言えば、使用済み燃料の問題があるのです。これまでプルトニウムを取り出して再処理するのだからこれは「資源」なのだと強弁して、最終処分の問題解決を先延ばししてきたのですから、核燃料サイクル計画の破たんを認めてしまうと、途端に使用済み燃料が単なる「ゴミ」として宙に浮いてしまうわけですね。「核燃料サイクル計画」と言い続けなければ、軽水炉も含めて日本の原子力すべてが崩壊してしまうのです。

kyoudaigensiro.JPG小林さんが講師として勤務した京大原子炉実験所(熊取町HP)

──今ある原発については、今後どうしていくべきでしょうか?
 いったん全て停止し、抜本的な安全検証をするべきです。たとえ全部止めたとしても設備容量からすれば何ら問題ないのです。唯一問題があるとすれば、真夏の数日間の昼の消費ピークだけです。それにしても対策はできるわけです。だからまずは止めて検証しなくてはならないし、いま政府主導で行われているような小手先の検証ではダメです。これまでの安全審査の内容のレベルを超える事態が起きたのですから、今後は今回の規模の事故に対応できるのかという視点から検証しなくてはなりません。津波被害の想定が著しく甘い、関西電力の原発(福井県の美浜、大飯、高浜)も根本的見直しが必要です。また、上関原発は内海に建設が予定されていますが、ひとたび事故が起こった際の被害の大きさは、外海に比べ甚大になる危険があります。とにかく原発新設は止めるべきです。

──その一方で代替エネルギーの問題も指摘されていますが。
 大規模集中発電というあり方自体を見直していかなくてはなりませんが、とは言え多くの電気を消費する大都市が存在する以上、当面のつなぎの切り札としては、コンバインドサイクル発電(ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた発電方法)です。発電効率は60%にも達しますから、原発に比較すれば約2倍の効率です。東電もすでに湾岸沿いに7機建設しています。

──今後進むべき道はどこにあるでしょうか?
 エネルギー大消費社会を転換していかないと根本的な問題解決にならないと思います。自然エネルギーであっても、大量消費を前提に大々的に活用するのであれば、新たな問題が発生することになり、結局問題の先送りにすぎないでしょう。
あくまでも分散型エネルギーを中心としながら、エネルギー消費のあり方を変えていかなくてはなりません。そうすると、東京一極集中もあり得ないのです。都市型中心の生活様式そのものを問い直さなくてはならないと思います。火力にしても水力にしても、地方で発電した電力の大部分を大都市が消費しています。リスクを消費地が負わない社会のあり方を変えなくてはなりません。

〈インタビューを終えて〉
 原子力工学を専攻する小林圭二さん。京都大学原子炉実験所原子力安全グループに属する小林さんは、「熊取六人衆」とか「異端の研究者」とか言われている研究者の中のお一人です。京大原子炉がある大阪府熊取町にほど近い、JR阪和線「和泉府中駅」前でお会いした小林さんは、物静かな研究者の印象で、とても原発の危険性を指摘し続けてきた、「闘う研究者」のイメージからは遠いものでした。
しかし、小林さんの言葉は権力に迎合せず、ひたすら科学的な見地から、うそ偽りないものとして、私の胸に響きました。原子力工学の専門家が吐く反原発の声は、だからこそ圧倒的な力で迫ってきます。〈藤本 泰成〉


東電社長発言・県知事や市長も不快感を表明
柏崎刈羽原発3号機「年内再開」を撤回せよ

原水爆禁止新潟県協議会 事務局長 中村 進

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 3.11東北地方太平洋沖地震で壊滅的破壊に至った福島第一原子力発電所は、未曾有の人災・「原発震災」を引き起こし、甚大な被害を与えた。震災後の3月15日、「総理が来る。会長を呼べ」と取り乱し、翌16日から点滴を打っていたが「めまい・ふらつき」で29日に入院したとされる東京電力・清水正孝社長が4月13日、約1ヵ月ぶりで記者会見を行った。

福島第一原発の収束見通しも立たないのに
席上、危機的な状況が続く第一原発の見通しに質問が集中したが「1日も早く(収束への)工程表を示したい」と述べるのがやっとだったと言われている。しかし、柏崎刈羽原発3号機について「年内に(国と地元に運転再開の)了解をいただく手続きに入る」とした。そのため私たちは翌日、①福島第一原発収束の見通しがない②廃炉に向けた工程表もない③地震による配管・各種機器等の損傷が明らかになっていない(津波に矮小化するな)④レベル7の原子力事故に対する責任を一切明らかにしていない⑤3月20日の県の申し入れ、及び3月30日の経済産業大臣の指示への回答は、”対処療法”で「津波波高3.3m」の見直しもなく、場当たり的だと抗議し、発言の撤回を求めた。
当然、新潟県知事や柏崎市長からも「不快感」を示す発言があり、特に会田洋柏崎市長は「収束が明確にならない限り、停止中の原発の運転再開の了承はあり得ない」とした。また、県技術委員会の委員からも「こんな状況で、東電だけで再開時期を言えるのか。とんでもない」(鈴木元衛委員)。「福島の事故は史上最悪のチェルノブイリ事故に並ぶ深刻な事態だ。柏崎刈羽で稼働中の原子炉もそのままにしていいのかという問題もある」(吉川栄和委員)と清水社長の発言に批判的な声が上がる一方、「東電は電力供給の責任もあり、(早期再開の)希望があるのは理解できる」(北村正晴委員・設備小委員長)というコメントもあり、予断を許す状況ではない。

※写真は市民団体「ナインにいがた」のminaさんが制作したプラカード

注目される県の技術委員会の審議
翌14日、横村忠幸柏崎刈羽原子力発電所所長は「国や県でも審議が進んでおらず『年内までに』の状況ではない。社内でも議論していないし、私どもから相談もしていない。社長の『希望』を述べた」と釈明した。また、17日に勝俣恒久会長も同様の発言であった。しかし、疑問が残る。一説によれば「おとなしい清水は社長の体をなさない」とか、部下が報告や判断を仰ぐと「会長の了解を取ってくれ。会長にも説明して」と答え、社員を呆れさせているとも言われている。そのような人物が勝手に判断し、発言したとは思えない。今後、清水社長が発言に至った経過を分析する必要がありそうだ。

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5月3日、新潟市内で行われた「原発どうする?シール投票」

 一方、東電の「緊急対策(1.緊急時電源対策 2.除熱機能の確保 3.原子炉への注水機能の強化・淡水源の確保 4.使用済み燃料プールの冷却確保)」や「今後の対策(1.標高15mの防潮堤 2.建屋への浸水対策)など」を検討する県の技術委員会の開催が予定されている。技術委員会のメンバーのあり方の改善を私たちは求めているが、県原子力安全対策課は「手続きを変える」姿勢は現在ない。浜岡原発運転停止を踏まえれば、その審議の方向・結論によっては「電力不足=日本の経済活動停滞論」が前面に打ち出される恐れがある。


世界の核兵器の状況を考える(2)
削減されない米ロの核戦力

日印原子力協定とインドの原賠法
 福島第一原発事故は、日本だけでなく世界に衝撃を与えました、原子力エネルギーを平和的に利用できるという考えは、人間の驕りにしか過ぎないことを、今回の事態は私たちに認識させたと言えます。
いくつかの国は脱原発政策を再確認しましたが、新たに原発を建設しようとする国も存在します。特にインドは事故を全く教訓とせずに、新たな原発建設を進めようとしています。
日印原子力協定問題では、インドが核実験を実施した場合のことだけが報道されていますが、あまり日本で報道されていない「原子力損害賠償法」(原賠法)について触れておきます。原賠法は、2010年9月にインド議会で成立しました。その内容は、原発建設以降100年にわたって、重大事故が発生した場合、その補償を契約会社や建設会社が負うと言うものです。
この原賠法には、米印原子力協定を締結した米国は強い異議を唱えていますが、福島第1原発事故が影響し、見直しどころか、原賠法の補償上限額150億ルピー(約276億円)を大幅に上げる可能性が強まっています。インドでは仏アレバ社による原発建設が始まろうとしていて、現地では死者も出る激しい反対運動が続いています。

米国の核戦力維持がもたらす危険
 福島第一原発事故は、一種の核戦争と同じ状況を福島にもたらしたと言えます。その一方で、核兵器による脅威も、また広がり続けています。昨年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議での人々の期待を裏切り、米ロの新START条約締結の意味さえ失う核兵器の拡大が続いているのです。
まず米・オバマ政権は、深刻な財政危機に直面する中、共和党とせめぎ合いながら、軍事費を含めた財政削減を進めていますが、しかし軍産複合体の意に反する削減には踏み込んでいないだけでなく、逆に「核戦力の維持+新兵器開発」による増強を進めているのが現状です。
オバマ政権は昨年度予算案で、備蓄核弾頭の劣化を防ぎ、軍需産業と技術レベルを維持するために、2011年度~2020年度にかけて総額810億ドル(約7兆円)、各予算年度で70~90億ドルを支出する案を提出、成立させましたが、今年2月に発効した新STARTは、実数での核弾頭数のほとんどが削減なしで、配備から外した核弾頭を廃棄せずに、備蓄に回すことが可能という形で保障されたと言えます。
こうしてオバマ政権は、核戦力を維持し続ける一方で、アジア、欧州へのミサイル防衛(MD)の展開、新たな「即時グローバル打撃」(PGS=Prompt Global Strike:地球のあらゆる地域を短時間で攻撃するシステム)の開発などを進めようとしているのです。ロシアや中国が警戒感を示すのは当然のことと言えます。

ロシアの大幅な核戦力増強計画
 ロシアは米国と結んだ新STARTによって、保有する核弾頭を削減するどころか、むしろ数字上は増やせることになったため、積極的な核戦力増強に乗り出そうとしています。
今年3月24日、ロシアのポポフキン国防次官が戦略核戦力の強化を最優先する軍装備近代化計画を明らかにしました。それは2020年までに19兆ルーブル(約53兆円)を投じて、新型のSLBM(潜水艦発射戦略ミサイル・ブラワ=RSM―56)を搭載する戦略原潜8隻の他、液体燃料式のICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発を行うと言うものです。この新型ICBMは核弾頭を最大10個搭載可能だとしています。
さらに戦略爆撃機ツボレフ(TU-95)の拡充も進め、中短距離ミサイルに対応する防空ミサイル・システム「S400=射程400㎞」を56基配備する他、より長射程の「S500」も10基導入。新型短距離ミサイル「イスカンダル」を10旅団に配備し、戦闘機600機以上、ヘリコプター1,000機以上、艦船約100隻、フランスと共同開発している強襲揚陸艦4隻をフランスから、無人偵察機などの特殊兵器をその他の国から購入する意向であると発表しました。
ロシアは新START条約交渉の中で、米国が欧州に配備するMD、PGSに強い警戒感を示してきましたが、その結果が核戦力を含む軍事力の増強へとロシアを動かしているのです。しかし、なぜそれほどの増強が必要なのか説明はありません。
一時期、偵察衛星が老朽化して機能せず、地上配備のレーダー網だけに頼っていたロシアは、最近ではソユーズロケットに搭載された軍事偵察衛星「コスモス」が機能しています。経済力の回復が、軍拡、海外膨張政策へと向かうとすれば、世界にとっても不幸なことです。


《各地からのメッセージ》
住民パワーで今こそ、脱原発社会の実現を

フォーラム平和・人権・環境しまね  事務局長 古川 輝雄

 3月11日の東日本大震災で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。
平和フォーラムしまねは、14の団体に16名の個人会員、そして2つの地区フォーラムがあり、会員数は約12,000人となっています。専従がいないため、書記が一人で事務所の切り盛りをしている状況で、護憲、反戦・反核平和、脱原発等の取り組みを行っています。
島根原発は、全国で唯一県庁所在地にあり、10キロ圏内には県都松江市も含まれ、万が一の場合約20万から30万人が避難しなくてはならず、その避難方法・避難先、そして、防災拠点のあり方など、今回の原発事故で改めて大きな問題点となっています。simane_koudou.jpg

福島原発事故から1ヵ月が経った4月14日、島根県・松江市・中国電力に、38年経過している島根原発1号機の稼働停止、2号機でのプルサーマル計画中止、3号機の建設中止などを要請するとともに、「原水禁エネルギー・プロジェクトからの提言」を手渡し、持続可能なエネルギーへの転換を求めました。
しかし、残念ながら中国電力は、原発依存の考え方を変えておらず、また、県も市も国の動向を見守る回答しか出ませんでした。こうした状況下で住民がどう選択するのか。リスクを負ってでも原発が必要かどうか、判断することも必要なのかもしれません。

かつて島根では、国策であった「宍道湖・中海干拓淡水化事業」を中止させた住民パワーがあります。そのために、市民グループと連携しながら、原発の危険性、エネルギーの地産地消、再生可能なエネルギーの推進を訴え、「脱原発」をめざした取り組みを展開していきます(写真は4月25日、島根県民会館で開催された映画「サクリファイズ」上映会&脱原発集会)。
過度な自粛は復興の妨げにつながります。島根には、出雲大社、世界遺産の石見銀山、夕日が美しい宍道湖があります。宍道湖のシジミが皆様をお待ちしております。


福島を「原発震災」が襲った
県内に広がる汚染への恐怖と不安

福島県平和フォーラム 事務局次長 國分 俊樹

放射能拡散が「復興」を阻む
 3月11日、福島県は未曾有の被災を経験しました。地震、津波、そして原発事故です。
地震による被害は県全体におよび、コンクリートづくりの建物、橋、道路までも損傷が大きく、新幹線をはじめとする鉄道も長期間の不通状態になりました。津波被害は県の東部の「浜通り」と呼ばれる太平洋岸で深刻です。国道6号線から東の太平洋側の平地が何らかの被害を受け、死者・行方不明者は1,000名を超える模様ですが、混乱のため全容はつかめていません。
テレビでは毎日のように「復興にむけてがんばれ」「悲しみをのりこえて」とのスポットが流れています。しかしその応援の声は、私たちを勇気づけてくれません。原発事故による放射能拡散が、復興を阻む根源的な不安要因となっているからです。

0515iwakidemo.JPGいわき市で開催された「さよなら原発」デモ(5月15日・写真提供「脱原発まちだ」)

紋切り型の対応が被曝を増やした
 福島第一原発の水素爆発、そして予告なしに行われた「ベント」により福島県の東半分が、少なからぬ量の放射能拡散の被害を受けました。地震・津波は天災ですが、放射能拡散は明らかに人災です。そして、その人災への国や県の対応が極めて脆弱です。今まで「安全」をくり返し唱え、それを自ら信じ、「安全」を前提として原子力政策を推進してきた自治体の中枢の人々が、今度は放射能対策に取り組む羽目になったのです。しかしそれでも原発事故の現状や放射能・放射線に関して、東京電力や原子力安全・保安院、政府の発表と指示を鵜呑みにし、事故前の論理と同様の論理で対策を進めています。「原発安全神話」の思考回路のままでの対策です。この構造自体が原発事故を引き起こした元凶であるにもかかわらず、有名になってしまった飯舘村の村民への対応を振り返れば、それは明らかです。紋切型の対応を修正するまでに、村民がどれだけの被曝をしてしまったかを考えると心が痛みます。
大量の放射能が拡散した、原発周辺自治体の財政が困窮していることも、悲劇に拍車をかけています。東電からの「麻薬金効果」により、産業が著しく停滞していました。町村独自での対策をとれないのが実情です。郡山市に「ビッグパレット」というイベントホールがあります。原発近隣住民、千数百名の避難所となっています。被災50日を経過した今も布団が配布されておらず、毛布と段ボールの生活です。廊下にまで被災者があふれ、被災直後から生活状況の改善がほとんど進んでいません。これが、つい最近まで「GDP世界第2位」と胸を張っていた日本社会の本当の姿です。

放射線測定器を送ってほしい
 放射能被害は福島第一原発20~30㎞圏内どころか50㎞以上離れた地域へも及んでいます。水蒸気爆発もしくはベントの際の気象条件と地形により、福島県北部・中部まで少なからぬ量の放射能が拡散しました。放射線の影響を受けやすいと言われる幼い子どもをもつ親は、恐怖と不安に苛まれています。「遠くへ逃げること」が肝要なのですが、経済的側面、人間関係、差別等々、まさに「人間」であるが故に、地域に留まらざるを得ません。
5月3日、憲法記念日の新聞には、日本国憲法前文が踊っていました。「日本国民は、(中略)全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、(中略)恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」。私たちは、一刻も早く、恐怖と不安から解放されることを望んでいます。
福島にもツバメがやってきています。数千㎞の旅をして、その間の生存率は半数程度だといいます。春から初夏の日本の気候が食料の獲得に適しているからとも聞いています。福島の地で、その「いのち」が繋がることを念じずにはいられません。
いま、「放射線量測定器」の入手が困難です。福島県平和フォーラムまたは福島県教職員組合にぜひ送ってください。よろしくお願いいたします。

◎福島県平和フォーラム
〒960-8106福島市宮町3-14労働福祉会館内
TEL:024-522-6101
◎福島県教職員組合
〒960-8134福島県福島市上浜町10-38福島県教育会館内
TEL:024-522-6141

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