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【ニュースペーパー10月号】問われる日本のアジア政策―経済がつくる安全保障の新しい流れ

2010年10月01日

中国がASEAN、台湾と自由貿易協定結ぶ
 今年1月1日、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)との間で「包括的経済枠組み協定」(ASEAN+1)が発効しました。この協定によって中国とASEAN10ヵ国(ASEAN10)は、石油化学、自動車部品、繊維、機械工業など主要製品が関税なしで取引されることとなりました。
 こうしたアジアの新たな経済の流れに危機感を抱いた台湾・馬英九政権は中国と交渉を始め、6月29日に中国との間で「経済協力枠組み協定」(ECFA)を調印しました。これは自由貿易協定(FTA)に相当する協定で、中国は台湾側に農産物、労働力の市場開放を求めないなどの大幅な譲歩を行い、この協定によって台湾は2009年の実績で計算すると約1,100億米ドルの利益を受けると言われます(世界9月号、岡田充「中国―台湾、ECFAがひらく新潮流」)。台湾の野党(独立派)は協定によって国内の中小企業が圧迫されると強く反対していますが、今や台湾経済は中国との貿易抜きには成り立たなくなっており、この協定によって台湾がさらに利益を得るなら、今後、中台間の安全保障問題にも大きな影響を与えるでしょう。
 馬政権は中台間の現状維持(独立でも中国との統一でもない)の立場で、今年1月には米国からミサイル防衛用のPAC3などを購入し、これが原因となって中国は米国との軍事交流を延期しました。しかし中国を中心としたASEAN10と台湾による新たな経済圏の出現は、各国の政治状況にも影響を与え、安全保障問題を含めた新たな流れがつくられることになるでしょう。

中国の脅威を強調する米・国防総省
 米国は今年2月1日に発表した4年毎の「国防見直し報告」は、「アクセス拒否環境」下での戦いに大きな力点を置いていることを印象付けました。「アクセス拒否」(Anti-Access)はここ数年使われ出した軍事用語で中国を念頭に、防衛力が強くて接近できない状況を意味します。中国のアクセス拒否戦力の一つは潜水艦による防御で、もう一つは対艦ミサイル攻撃です。
 しかし、中国が急速に軍事力を強化したとしても、米国との差は歴然としています。ただ、米国が抱える最大の問題はイラク、アフガン戦争によって膨張した財政負担と、リーマンショック後の経済不振によって、軍事予算の大幅削減を迫られていることです。
 ゲーツ米国防長官は、今年5月3日にメリーランド州で開催された「ネイビーリーグ 海―空―宇宙エキスポ」で演説し、次のように述べています。「米国は11隻の大型原子力空母を保有する。大きさと攻撃力において、1隻でも同じレベルの艦船を保有する国は他にはない」「国防総省の計画では、2040年までに11の空母打撃群を保有するとなっている」が、「二つ以上の空母打撃群を保有する国が他にない状況で、今後30年間に11の空母打撃群を持つことが、本当に必要だろうか?」と問いかけ、今後必要なのは長距離無人戦闘機、新しい海からのミサイル防衛、より小型の潜水艦や無人水中軍事拠点などであると訴えました(TUP-Bulletin速報857号)。
 一方8月16日、米・国防総省は議会に年次報告書を提出し、「中国はインド洋や太平洋のさらなる沖合でも行使できる軍事力の獲得を進めつつある。中国が保有する新型兵器は遠方でも操作できるよう性能が強化されている」と中国の脅威を表明しました。
 こうした国防総省による報告を受ける形で8月27日、日本の「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(新安防懇)は、12月に予定される「新防衛計画の大綱」に向けての報告者を菅直人首相に提出しました。
 新安防墾の報告書は、「非核3原則」、「武器輸出3原則」の見直し、集団的自衛権の行使を禁じる憲法解釈の見直し、必要最小限の基盤的防衛力の見直しにまで及んでいます。行き着く先は、憲法改正の危険性ということがあります。

東アジアの平和に向けてイニシアチブを
 しかし、米中両国は経済的にお互いを必要としていて、軍事的には牽制しつつも、政治的には共存関係を強める以外に道はない状態です。延期されている米中軍事交流も、両者は必要であると認識しているのです。
 民主党代表選では、菅首相が再選されましたが、菅政権はどのような外交政策、アジア政策を示すのでしょうか。普天間基地の辺野古への移転は現状ではほぼ不可能な状況と言えますが、新しい状況への展望は見えてきません。流動する状況の中で、日本だからこそ東アジアの平和へのイニシアチブを取れるのに、逆に国民は危うい状況に導かれているという危惧の念を強くしています。
 私たちは、普天間基地の辺野古への移転を阻止することから状況を変えていかなければなりません。この力で改憲へと進みかねない「新安防懇」の報告書への批判を強めていきましょう。

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