声明 - 原水禁
2021年07月18日
7月14日、広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」を浴びたのに国の援護を受けられないのは違法として、住民84人(うち14人死亡)が広島県と広島市に被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟の控訴審判決で、広島高裁(西井和徒裁判長)は、原告全員を被爆者と認定した一審判決を支持し、県や市、訴訟に参加する国側の控訴を棄却し、手帳交付を命じました。
判決では、「放射能による健康被害が否定できないことを立証すれば足りる」と指摘し、原告らは、雨に打たれた外部被曝と、雨に含まれる放射性物質が混入した井戸水や野菜を摂取した内部被曝により健康被害を受けた可能性があるとして被爆者に該当すると結論付けました。
国がこの間、頑なに被爆者の認定には放射線の影響を受けた科学的合理性が必要だと主張していましたが、今回の判決でも退けられました。これは、「影響が分からないから予防的に広く救うのではなく、分からないから救わないとする国の論理」を覆すもので、画期的な判断です。
このことは長崎で進められている被爆体験者訴訟(再提訴)にも大きな影響を与えるもので、長崎でも被爆地域の拡大に弾みがつく判決でした。
今回の判決に対して、原水禁として、別添の声明を発しました。残された被爆者の課題の解決にむけ、今後も取り組みを強化していきます。
「黒い雨」体験者を速やかに被爆者と認め、被曝地域の見直しと援護の充実を求める
7月14日、広島への原爆投下直後に降った、放射性物質を含む「黒い雨」を浴びたのに、被爆者として認められず国の援護を受けられないのは違法として、住民84人(うち14人死亡)が広島県と広島市に被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟の控訴審判決で、広島高裁(西井和徒裁判長)は、原告全員を被爆者と認定した一審判決を支持し、県や市、訴訟に参加する国側の控訴を棄却し、手帳交付を命じました。
判決では、「放射能による健康被害が否定できないことを証明すれば足りる」と指摘。原告らは、雨に打たれた外部被曝と、雨に含まれる放射性物質が混入した井戸水や野菜を摂取した内部被曝により健康被害を受けた可能性があるとして被爆者に該当すると結論付けました。国はこの間、頑なに被爆者の認定には、健康被害が放射線の影響であるとする科学的合理性が必要だと主張していましたが、今回の判決においてもそれは退けられました。これは、「影響が分からないから予防的に広く救うのではなく、分からないから救わないとする国の論理」を覆すもので、画期的な判断です。判決は、被爆者援護法の根底には、国が特殊な戦争被害を救済するという国家補償的配慮があり、幅広く救う趣旨に沿って定められたと確認した上で、原爆の放射能による健康被害を否定できなければ被爆者にあたるとしました。
また黒い雨は、一審に続いて国が定めた特例区域(爆心地の北西11km、南北19km)より広い範囲に降ったと判断し、特例区域外にいた原告らも「黒い雨に遭った」と認め、一審判決よりもさらに踏み込んだ判断をしました。これは昨年7月の広島地裁判決に続き、被爆者援護法の救済理念に基づき、国の援護行政の見直しをあらためて迫る内容です。
現在長崎地裁で再提訴され、進められている被爆体験者訴訟にも大きな影響を与えるものです。被爆地を旧長崎市域に限るという合理性を欠く理由で被爆者から排除された被爆体験者においても、被爆地を拡大するとともに内部被曝を認め、救済措置の実施を行い手帳の交付を認めるべきです。
一審判決後に厚生労働省は、援護の「特例区域」拡大を求める県と市の要望を受け、降雨域や健康への影響を検証する有識者検討会を設けて議論していましたが、未だに結果は出ていません。すでに広島県・市は上告に対して否定的であり、国は、県・市の意向を踏まえ上告をせず、速やかに原告を被爆者と認め、被爆者健康手帳の交付を行うべきです。
2015年の提訴から7年近くにもなり上告は黒い雨体験者をさらに苦しめるもので許されません。高裁判決を受けいれ一刻も早く手帳を交付することを強く要望します。
2021年7月14日
原水爆禁止日本国民会議
共同議長 川野 浩一
金子 哲夫
藤本 泰成
2021年03月24日
3月18日、水戸地方裁判所は、東海第二原発について、再稼働を認めない判決を言い渡しました。原発事故が起きた際に、住民を避難させるための避難計画や防災体制が、十分整えられていないことを理由に、運転の差し止めを認める初めての司法判断でした。
これを受け、原水禁声明を発出致しましたので、ここにご案内いたします。
東海第二原発運転差し止め判決に対する原水禁声明
3月18日、首都東京に一番近い原発である日本原子力発電(原電)の東海第二原子力発電所(茨城県東海村)について、水戸地方裁判所(前田英子裁判長)は再稼働を認めない判決を言い渡しました。
判決では、原発事故が起きた際に、住民を避難させるための避難計画や防災体制が、十分整えられていないことを理由に、運転の差し止めを認める初めての司法判断を示しました。判決は、原発を動かす以上、住民の生命を確実に守る必要があるという重要な課題を突きつけています。それは当然、他の原発においても避難や防災の実効性の再検討を求めるものです。
東海第二原発では、原発から半径30km圏内に94万人が暮らし、原発で重大な事故が起きた際に、確実かつ安全に避難させることができるかが問題となっていました。
判決では「30km圏内の住民が避難できる避難計画と体制が整っていなければ、重大事故に対して安全を確保できる防護レベルが達成されているとはいえない」とし、「避難計画の策定は、14市町村のうち避難が必要な住民が比較的少ない5つの自治体にとどまっていて、人口の多い水戸市などは策定できていない。5つの自治体の避難計画も複合災害の課題をかかえている」と指摘しました。そのうえで、現在策定された避難計画も不十分として「実現可能な避難計画や実行できる体制が整えられていると言うには程遠い状態で、防災体制は極めて不十分だと言わざるをえない」と、東海第二原発の再稼働を認めませんでした。「避難・防災」体制の不備が住民に具体的危険がおよぶとして、差し止めの判断を下したことは画期的であり、他の原発訴訟に大きな影響を与えるものです。
一方で、原告が主張した「地震」や「津波」「火山噴火」などについて、「規制委員会の審査に見過ごせない誤りや欠落があるとまでは認められない」としたことには、絶対に承服できません。同日、広島高等裁判所では、伊方原発訴訟に対する四国電力の異議審において、巨大噴火や活断層の存在の可能性を退けた判決が下されました。自然災害のリスクを矮小化し、住民の安全を顧みない姿勢は、福島原発事故を経験した日本社会に、決して受け入れられるものではありません。
これまで原発は、多重防護を前提に過酷事故など絶対に起こらないとしてきました。それが「安全神話」につながり、2011年3月11日の東日本大震災・福島第一原発事故を起こしたと考えます。多重防護が自然災害によって打ち壊された際の最後の砦が、第5層の防災体制であり、そこには実行性ある避難計画の策定が求められます。
日本では防災計画の策定は、自治体に求められていますが、狭隘な国土に人口が密集する日本においては、実効性のある避難計画の策定は、現実的に不可能と言わざるを得ません。そのことを無視し、原発の再稼働を強行することは、今回の裁判でも指摘されているように、住民の「人格権」を侵害するものでしかありません。
原水禁は、原電に対して、避難計画が現実的に不可能なことを認め、再稼働を追及せず、すみやかに東海第二原発の廃炉に踏み切ることを求めます。
2021年3月19日
原水爆禁止日本国民会議
議長 川野 浩一
2021年03月11日
2011年3月11日の東日本大震災・福島原発事故から10年が経過しました。
東日本大震災・福島原発事故により、お亡くなりになられた方々に心から哀悼の意を表します。また、今もなお、かつての生活を取り戻せず、苦難の日々を過ごされている方々にお見舞い申し上げます。
福島原発事故の廃炉・収束作業は、10年が経過しても、約880トンと言われている溶融した核燃料、デブリの全貌は把握できていません。2021年中の予定とされていたデブリ取り出し開始が断念されるなど、廃炉に向けての作業は、高線量の放射線に阻まれ、困難を極めています。事故収束に向けて、最大の問題であるデブリ取り出しの具体的な工法も見えず、山積する課題に、事故後30年から40年とされた廃炉作業の「完了」は、全く見通しが立たない状況にあります。
たまり続けるトリチウムなどの放射性物質を含む汚染水(ALPS処理水)は、現在約124万立方メートルとなり、日本政府は「海洋放出」によって処分しようとの見解を発表しています。「海洋放出」ありきの議論は、福島県民・漁業従事者などを置き去りにしてすすめられています。復興に向けた、これまでの福島県民をはじめとする多くの方々の努力を水泡に帰きすような事態が想定されます。
事故から10年が経過しても、福島県では県内に7,185人、県外に2万8,505人、避難先不明者13人の合計3万5,703人(2021年2月8日復興庁調査に基づく、3月5日現在の被害状況即報[福島県災害対策本部発表])が、長期の避難生活を余儀なくされています。また、福島県内の震災関連死と認定された人は2,320人[同発表]で、前年度より13人増えています。一方、政府は、避難者の実情を考慮することなく、「帰還困難区域」の指定を解除し、補償の打ち切りや帰還政策をすすめています。被災者を社会的・精神的・経済的に追い詰め、切り捨てていく政策は決して許せません。
事故の責任の所在もあいまいなまま10年が経過しました。いくつかの裁判において、国・東京電力(東電)の責任を認める判決が出されましたが、国・東電は、その責任を果たしていないのが現状です。
東京オリンピック・パラリンピック開催に向けての「復興」のかけ声の中、事故を「風化」させ、なかったものにしようとの企図が見え隠れします。事故から10年が経過しましたが、原因究明や責任追及が終わった訳ではありません。避難者が全て帰還できたわけではありませんし、失われたコミュニティーが全て再建されたわけでもありません。そして廃炉作業が終了したわけでもありません。事故は終わっていません。今も続いていることを私たちは胸に刻むべきです。
日本政府は、脱原発を決断せず、原発再稼働をすすめ、核燃料サイクル計画を推進し、事故以前と変わらない姿勢に終始しています。そのことが、再生可能エネルギーの進捗を拒んでいます。しかし、原子力をめぐる環境は、この10年で大きく変化しました。事故当時54基あった原発は、事故後21基が廃炉となり、新規原発は立ち上がっていません。原子力政策の要と言われた核燃料サイクル計画も、高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉などによって政策の破綻は明らかです。今や原発は「廃炉の時代」を迎えています。
原水禁は、一貫して「反原発」「脱原発」を掲げて運動をすすめてきました。私たちの力がおよばず福島原発事故を許してしまいましたが、今後の第2・第3のフクシマを止めなければなりません。原水禁は、一刻も早い脱原発社会の実現に向けて、さらなる努力を重ねることを「3.11」に改めて誓います。
2021年3月11日
原水爆禁止日本国民会議
議長 川野 浩一
2021年01月24日
国の責任を不問とした東京高裁判決に対する原水禁議長声明発出について
1月21日、東京高裁は、東京電力福島第一原発事故で、群馬県などに避難した住民が、国と東京電力に損害賠償を求めた集団訴訟の控訴審判決で、国の責任を認めた一審の前橋地裁判決を覆し、国の責任を不問とした。
これを受け、原水禁議長声明を発出致しましたので、ここに掲載いたします。
国の責任を不問とした東京高裁判決を許さない(原水禁声明)
1月21日、東京高裁(足立哲裁判長)は、東京電力福島第一原発事故で、群馬県などに避難した住民37世帯91人が、国と東京電力に約4億5,000万円の損害賠償を求めた集団訴訟の控訴審判決で、国の責任を認めた一審の前橋地裁判決を覆し、国の責任を不問とした。一方で東京電力には、原告90人に約1億1,972万円の賠償を認めた。国と東京電力に合わせて62人、3,855万円の賠償を命じた一審の前橋地裁判決より救済範囲を広げたものの、原告の要求からは程遠い。
国と東京電力を被告とした高裁判決は、2020年9月の仙台高裁に続くものだが、国と東京電力の責任を問えるかどうかの判断は分かれた。仙台高裁の判決は、双方の責任を認めたが、今回の判決では、国の責任を不問とした。
両訴訟では、2002年7月に国の地震調査研究推進本部が公表した「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」をめぐって、津波の襲来予測と事故回避の可能性が争われた。仙台高裁の判決では、国の専門機関が明らかにした「福島沖で巨大地震が起きる可能性がある」との長期評価の信頼性を認め、東京電力と国が適切に対応していれば被害を避けられたとした。しかし、今回の東京高裁判決では、長期評価の前提となる「約400年間に3回の津波地震の発生」について異論があったほか、2002年1月に土木学会原子力土木委員会が公表した「原子力発電所の津波評価技術」の知見とも整合しないことを理由に、巨大津波の襲来を予見できなかったとし、「長期評価」の知見を前提に津波対策を講じても原発内への津波の浸水を防止はできなかったとして、「津波対策に関する国の対応に問題があったと認めることは困難だ」とした。
しかし、国や東京電力が、津波の可能性を警告する「長期評価」を無視し、経営を優先して原発事故のリスクを軽視し対応を怠ったことは事実であり、原子力災害を招いた責任から逃れることはできない。
現在20件余りにもおよぶ同様の裁判が進行し、今後も国と東京電力の責任が追及される。そこでは、当事者が真摯に責任を省みることが求められている。
原発事故被害者への賠償は、政府の原子力損害賠償紛争審査会が定めた指針に基づいて進められてきたが、今回の判決においても不十分であることが指摘された。同様の判断は、他の訴訟でも繰り返されている。事故から10年を経た現在においても、被害者の納得する賠償が進んでいなことは、きわめて問題である。東京電力は、審査会の指針以上の賠償を拒否し、原子力損害賠償紛争審査会の調停案にも異議を唱え、福島地裁の和解勧告さえもはねのける姿勢に終始し、被災者からの訴訟が相次いでいる。政府も、避難指示解除にともなって避難者へのさまざまな賠償や支援を次々と打ち切っている。避難者の置かれている実態を考慮せず、一方的に切り捨てようとする姿勢は、許せない。
私たちは、避難者、被災者への誠実な賠償と支援を強く求めると同時に、国の責任を不問とした東京地裁判決に強く抗議する。
2021年1月24日
原水爆禁止日本国民会議
議長 川野 浩一
2020年05月15日
核燃料サイクル政策の破綻を認め、六ヶ所再処理工場の建設中止を求める原水禁声明
5月13日、原子力規制委員会は、青森県六ケ所村にある日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(六ヶ所再処理工場)が、新規制基準に適合していると認める「審査書案」を了承した。結果、国内初の商業用再処理工場として本格稼働の前提となる審査に「合格」したこととなった。
今回の「合格」との判断に対して、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)は強く抗議し、六ヶ所再処理工場の建設中止と核燃料サイクル政策の破綻を認め、政策の根本的転換を求める。
六ヶ所再処理工場は、当初1997年であった完工予定は、相次ぐトラブルや設計見直しなどにより、24回も延期された。その間、原子力をめぐる情勢は、大きく変化し、福島原発事故以降、原発は廃炉の時代へと移った。MOX燃料によるプルトニウムの利用も、16~18基で実施する計画が福島原発事故以降4基に留まり、高額な生産コストも含めて非現実的となっている。プルトニウム利用の前提であった高速増殖炉開発も、2018年3月の原型炉・もんじゅの廃止措置計画の決定によって、その未来は断ち切られた。
日本原燃は、完工を2021年度上期とする目標を変えてはいないが、今後、設備の工事計画の審査、安全協定などが続くため、完工・稼働の時期の見通しは不透明であり、25回目の再延期は免れないと考えられる。その間、原発をめぐる情勢がさらに厳しくなることは確実であり、六ヶ所再処理工場の存在意義はまったく失われている。
日本は、余剰プルトニウムを持たないことを国際公約とし、六ヶ所再処理工場では「必要以上の再処理はしない」としている。また、原子爆弾の原料ともなるプルトニウム所有は、核兵器廃絶の視点からも国際的非難を浴びている。現在所有する約46トンのプルトニウムの利用計画も立たない中では、再処理工場の稼働は見込めない。電力自由化が進む中、生産コストの高いMOX燃料では「商業」的に成り立たない。現時点での再処理工場の総事業費は13兆9,400億円と見積もられている。完工時期が延び、今後も続くトラブル、事業環境の変化を考慮すると、さらに費用が膨れ上がることは確実だ。そのツケは、高額な電力料金として、私たちに押し付けられることは明らかで、許すことはできない。
再処理によって生み出される回収ウランの使途や使用済みMOX燃料の再処理に関しても、その方針は確定していない。未解決な課題が様々残ったままにされている。青森県や六ヶ所村との将来にむけた話し合いを基本に、いまこそ、核燃料サイクル計画からの勇気ある撤退を現実のものとしなくてはならない。原水禁は、強くそのことを求める。
2020年5月15日
原水爆禁止日本国民会議
議長 川野 浩一
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