声明申し入れ
自民党・石破茂前政調会長による「潜在的核抑止力」論への質問状
2011年12月16日
自民党の石破茂前政調会長による「核の潜在的抑止力を持ち続けるためにも、原発を止めるべきではない」との主張に対し、原水禁は自民党へ質問状を送りました。
「潜在的核抑止力」論への質問状
自由民主党総裁 谷垣 禎一 様
幹 事 長 石原 伸晃 様
政務調査会会長 茂木 敏充 様
原水爆禁止日本国民会議
議 長 川野 浩一
事務局長 藤本 泰成
「報道ステーション」(2011年8月16日)やSAPIO誌2011年10月5日号で、貴党の石破茂政調会長(当時)が、核の潜在的抑止力を持ち続けるためにも、原発を止めるべきではないと主張しています。そして、後者では、日本が核武装をすれば国際的な制裁措置のために核燃料の輸入ができなるとの問題は、核燃料サイクルが完成すれば無くなるとの見解を示しています。高速増殖炉の商業的導入が進み、核燃料サイクルが完成すれば、「純国産燃料」のプルトニウムが長期的に確保でき、核燃料の禁輸措置を心配することなく核武装する可能性が生まれる、つまりは、「潜在的核抑止力」が実際に機能するようになるということでしょう。これは、再処理・高速増殖炉計画が潜在的核抑止力確保のためにとくに重要な意味を持つとの主張と解釈されます。石破前政調会長が、防衛庁長官、防衛大臣を歴任されていることを考えると、同氏の主張は、自民党のこれまでの原子力開発の裏にあった主張・方針なのかという疑問を持たざるを得ません。
1. 自民党が長年に亘って原子力開発を推進してきた目的の一つは、「核の潜在的抑止力」の確保・維持ということにあったのでしょうか。
2. 核の潜在的抑止力を持ち続けるために、原発を止めるべきではないというのは、現在の自民党の主張でしょうか。
3. 再処理によるプルトニウム生産は、高速増殖炉に初期装荷燃料を提供するというのが目的だったはずですが、高速増殖炉計画が大幅に遅れ続け、原型炉「もんじゅ」の運転計画が厳しい批判に曝されている今でも、六ヶ所再処理工場の運転をすべきと自民党は考えていますか。
4. 自民党は今でも高速増殖炉計画を進めるべきと考えていますか。
5. その場合、高速増殖炉の商業的導入時期について何年頃と自民党は判断していますか。
上記、質問項目への回答をお待ちしております。
参考
●石破茂前自民党政調会長の核武装についてのこれまでの見解と高速増殖炉
石破議員は、これまで日本の核武装について、そのデメリットを考えると核武装などすべきでないとの見解を表明されていました。デメリットとは、(1)日本が核武装の決意を表明すると、核燃料が輸入できなくなり、原子力発電が止まる(2)NPT体制が崩壊し、数多くの核保有国が出現してしまう、などです。つまりは、結局「核か原発か」の選択となるのではと『サピオ』誌に問われた石破議員は、「バックエンドたる核サイクルも未だ展望が見えていないため、そのような二者択一になる」と答えています。
プルトニウムを燃やしながら、燃やした以上のプルトニウムを生み出す無尽蔵のエネルギー源となるはずの「夢の高速増殖炉」が商業的に導入される時期になれば、軽水炉用の低濃縮ウラン燃料の入手について悩むことなく核兵器と原発の両方を選択できるようになる、つまりは、潜在的核抑止力が実際のものとなるということのようです。石破議員の言う「潜在的核抑止力」は、高速増殖炉の商業利用によりプルトニウムが「純国産燃料」となる時期以降ということになります。高速増殖炉商業導入は、原子力委員会の長期計画では、1961年には、1970年代とされていましたが、最新版の2005年原子力政策大綱では「経済性等の諸条件が整うことを前提に、2050年頃から商業ベースでの導入を目指す」となっています。当初予定から70年以上の遅れが生じています。
なお高速増殖炉のブランケット部分(プルトニウム製造用部分)で産み出されるプルトニウムは、プルトニウム 239 の含有量が極めて高く、核兵器の材料として最適のものです。これは「もんじゅ」のような原型炉でも作れますですが、石破議員が述べているのは、これとは直接関係のない話です。石破議員は、核武装を宣言すると軽水炉用の低濃縮ウランの燃料供給を外国から即座に止められる可能性を強調した上で、外国からの供給に頼らなくてすむようなバックエンド体制・核燃料サイクルが実現できれば、原子力利用と核武装の両立が可能となり、潜在的核抑止力が持てるようになると言っているようです。つまり、潜在的核抑止力は、高速増殖炉が商業規模で多数導入されて初めて可能になるということになります。
●石破茂前自民党政調会長発言抜粋
1.「報道ステーション」 2011年8月16日
原発のウェートを減らしていきながら、再生可能エネルギーのウェートを高めていくという方向性に異存はありません。ですけども、原発をなくすべきということを目標とするやり方には賛成してはおりません。原子力発電というのがそもそも、原子力潜水艦から始まったものですのでね。日本以外のすべての国は、原子力政策というのは核政策とセットなわけですね。ですけども、日本は核を持つべきだと私は思っておりません。しかし同時に、日本は(核を)作ろうと思えばいつでも作れる。1年以内に作れると。それはひとつの抑止力ではあるのでしょう。それを本当に放棄していいですかということは、それこそもっと突き詰めた議論が必要だと思うし、私は放棄すべきだとは思わない。なぜならば、日本の周りはロシアであり、中国であり、北朝鮮であり、そしてアメリカ合衆国であり、同盟国でるか否かを捨象して言えば、核保有国が日本の周りを取り囲んでおり、そして弾道ミサイルの技術をすべての国が持っていることは決して忘れるべきではありません。
2.SAPIO 2011年10月5日号
「核の潜在的抑止力」を維持するために私は原発を止めるべきとは思いません。
私は核兵器を持つべきだとは思っていませんが、原発を維持するということは、核兵器を作ろうと思えば一定期間のうちに作れるという「核の潜在的抑止力」になっていると思っています。逆に言えば、原発をなくすということはその潜在的抑止力をも放棄することになる、という点を問いたい。・・・
私は日本の原発が世界に果たすべき役割からも、核の潜在的抑止力を持ち続けるためにも、原発を止めるべきとは思いません。・・・
核の基礎研究から始めれば、実際に核を持つまで5年や10年かかる。しかし、原発の技術があることで、数ヶ月から1年といった比較的短期間で核をもちうる。加えて我が国は世界有数のロケット技術を持っている。この二つを組み合わせれば、かなり短い期間で効果的な核保有を現実化できる。・・・
[(核武装を決断して)NPTを脱すると、核燃料が止められてしまい、原発も動かせません。結局は、「核か原発か」の二者択一になってしまうのでは?]
それは今後の「原発」のあり方にもよるでしょう。わが国は、核燃料というフロントエンドは外国に頼り、バックエンドたる核サイクルも未だ展望が見えていないため、そのような二者択一になる。だから、今までのところ、「絶対に軍事利用しない」という条件の下で、IAEAの厳格な査察を受け入れながら原発を進めてきた。日本の核抑止力が「潜在的」である所以です。
3.「核の傘はないよりまし」石破茂自民党政調会長 産経新聞 2011.2.19
[日本が核武装することの]デメリットは『米国の核抑止は信用ならない』という議論になることだ。核兵器の実効性を確保するための実験をどこでするのか、という非常に高いハードルもある。加えて、核拡散防止条約(NPT)は当然脱退することになり、(原子力発電用の)核燃料がわが国に入らなくなり、電力は4割ダウンする。外交関係で非常に難しい問題を惹起することも覚悟しなければならない。
確かに、NPT体制は『核のアパルトヘイト(人種隔離政策)』だといわれるほど、(米、露、英、仏、中の)5カ国だけに核保有を認める不完全な体制だ。だが、日本はそれを承知の上で入っている。日本が脱退して核を持つと、韓国も、台湾も、フィリピンも、インドネシアも(持ちたい)、となる。世界中が核を持つのは今のNPT体制より良いか、といえば、そうではない。核が今以上に拡散すれば、核兵器を管理できない国家やテロ集団に核が渡る可能性はさらに高まる。持つメリットと比較考量すべきだ。
4.石破 茂、清谷 信一 『軍事を知らずして平和を語るな』 ベストセラーズ (2006/10) p.179-180
結局、最終的には損得の世界だと思うんですよ。核を持てば得する面もあるでしょう。その代わり、同際社会から村八分になれば、草をはまねばならなくなる。日本がウランを輸入するにあたっては各国と原子力協定を結んでいますから、協定義務違反となれば、ただちに核燃料の供給は止まります。するとやがて原発が止まるから、今みたいに夏場に冷房なんてきかせられないし今の文明生活が六割減になるでしょう。
5.石破 茂、小川 和久 『日本の戦争と平和』 ビジネス社 (2009/5/21) p.284
核兵器を持つ、というのはそれはそれで一つの考え方です。しかし、当然NPTは脱退しなくてはならない。 核燃料も入らなくなるし、再処埋もしてもらえない。現在原子力発電が約4割ですから、その分経済活動はダウンする。太陽光発電や風力発電で代替できるものではとてもありません。
日本が核を持つということはそのままNPT体制の崩壊を意味し、あちこち核保有国だらけになる。NPT体制自体は相当に不公干なものだけれど、世界中が核を持つよりはまだマシでしょう。核保有論者はそんなことも全部国民に説明してくれるのでしょうか。