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【ニュースペーパー2011年7月号】原水禁関連記事

2011年07月01日

●「命か電気か」の選択をする覚悟が必要だ
高木学校メンバー、元・放射線医学総合研究所主任研究員 崎山 比早子さんに聞く

●「さようなら原発1000万人アクション」がスタート
1000万署名、5万人集会に全力で取り組もう

●被爆66周年原水爆禁止世界大会の課題
今年は福島、沖縄でも開催

●ヨーロッパ・自然エネルギー調査に参加して
全日本水道労働組合 禧久 章蔵

●世界の核兵器の状況を考える(3)
核軍拡が中・印・パ3国で急拡大

●《各地からのメッセージ》脱原発・反基地の取り組みを柱に47年
茨城平和擁護県民会議  事務局長 相楽 衛


「命か電気か」の選択をする覚悟が必要だ

高木学校メンバー、元・放射線医学総合研究所主任研究員 崎山 比早子さんに聞く

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【プロフィール】
 東京生まれ。千葉大学医学部卒業、医学博士。米マサチューセッツ工科大学研究員・放射線医学総合研究所主任研究員を経て、1999年から高木学校の専従メンバーに。共著に『受ける?受けない?エックス線CT検査~医療被ばくのリスク』(七つ森書館)。学生の頃から山登りやテニスなど、スポーツも得意。映画や読書など、幅広い趣味を持つが、「最近は忙しくてそうしたことを楽しむ余裕もない」。

〈高木学校とは〉
 原子力資料情報室の前代表の故・高木仁三郎さんは、プルトニウム利用の危険性を世界に広く知らせた科学的・社会的貢献により、97年にもうひとつのノーベル賞と言われるライト・ライブリフッド賞を受賞しました。その賞金と多くの方々の支援をもとに、現代社会の直面する諸問題に市民の視点から取り組むことができる「市民科学者」を育成したいと、98年にスタートしました。2000年に高木さんが亡くなられた後は、高木学校に集うメンバーが市民科学者をめざし、市民講座や勉強会、出前講師などの活動を続けています。
●高木学校HP

──高木学校に関わった経緯を教えてください。
私は1975年頃から放射線医学総合研究所(放医研・科学技術庁管轄)に勤めていましたが、放射線による発がん実験などはあまり面白くなかったので、主にがん細胞の転移のメカニズムなどを研究していました。
日本にアメリカの原子力潜水艦が入港して、放医研は入港の前後に海水の放射能量を調べることになっていました。しかし、私は日本に原潜が来ること自体がおかしいと主張し、調査に行くことを拒否しました。そんなこともあり、放医研を定年退職するときに自分の専門性を生かせる場がないかと考えていました。そのときにたまたま高木仁三郎さんを紹介する新聞記事を見て、99年に飛び込んだのです。それまで高木さんの名前も知りませんでした。

──高木学校での活動について教えてください。
文部科学省は子どもたちに原子力推進教育を行っており、原子力の危険性については全く教えていません。それで高木学校では、2003年に市民講座「原子力と環境教育を考える」を開き、その後も学校の教員などと一緒に「原子力教育を考える会」をつくって、ホームページで誰でもわかるような原子力の問題を解説するなど、活動を続けています。
高木学校では、04年からは「医療被ばく」の問題を連続して取り上げています。日本ではエックス線・CT検査などで、年間約9万人がガンになると推定され、世界でも群を抜いて医療被ばくが多いのが現状です。また、医療従事者の被ばくも多いのです。しかも、医師は放射線のリスクに関する知識がなく、厚生労働省も対策を取っていません。そうした実態を知らせるために「受ける?受けない?エックス線 CT検査~医療被ばくのリスク」というブックレットや「医療被ばく記録手帳」を作ったり、市民講座を毎年開いたりしてきました。手帳は検査による被ばく線量の記録を付けられます。そのような活動が福島原発事故後の講演でも生かされています。

──福島原発事故で、政府や専門家は「人体にただちに影響しない」と言っています。
これまで原発を進めてきた立場の者が「安全・安心」を言うのはおかしいと最初から思っていました。確かに、自然界にも放射線は存在しますが、それに人工放射線が加わるわけですから、影響がないなどとは言えません。被ばく線量と発ガンリスクの関係については「ある線量以下なら影響がないという『しきい値』はなく、比例関係にある」ということが、現在では国際的な合意になっています。特に、今回は原発の事故現場で働く労働者の年間被ばく線量の上限を250ミリシーベルトまで引き上げました。急性障害が出るギリギリの値で、大変危険なことです。
そして、子どもの年間放射線被ばく限度を20ミリシーベルトとし、校庭等の使用を毎時3.8マイクロシーベルト以下なら問題はないとしました。国際的な基準では年間1ミリシーベルトであり、さらに、「社会的・経済的に達成可能な限り低くする」という付帯条件も付けられています。子どもは大人よりも放射線の被害を受けやすいことを考えると、今回の措置はとんでもなく非科学的・非人道的なことです。1ミリシーベルトを適用すれば、広い範囲の子どもたちが避難しなければならず、大変だからということで政治的に決められたわけですが、子どもの命を考えれば、集団で安全地帯に疎開させるなどの対策を取るべきでしょう。大人が推し進めた原子力行政の失敗のツケを、子どもに払わせるのは許されることではありません。
今回の事態は戦争中の特攻隊と同じ構図ではないかと思います。若い人の命が失われることを平気でやっているわけです。命を軽視しています。それでも特攻隊の場合は自ら選択ができましたが、今回は無差別に何も知らない子どもたちを犠牲にしているのです。

──それでも原子力エネルギーが必要だという神話がまかり通っています。脱原発への世論をどうつくっていくかが問われています。
福島では、地域全体が汚染されている可能性があります。そうした中で、人々は汚染されたものを食べなければならず、これからもっと差別的な構造が出てくるのではないかと思います。早急に脱原発の方向をめざすべきです。浜岡原発は止まりましたが、当然のことで、遅すぎるくらいです。これからは、定期点検や事故で止まった原発は動かさないと決めれば、2年以内に全ての原発を止めることができます。
そのためには、日本人全体が「命か電気か」の選択をする必要があります。福島で起きていることは、明日は自分のことになるかもしれないのです。その覚悟が迫られているのに当事者意識がなさすぎます。当然、電気が全て無くなるわけではありません。自然エネルギーの利用も進めて、脱原発社会をつくるべきです。そのために、原水禁も原水協も手をつなぎ、様々なところと連携して運動を進めてもらいたいと思います。
司法にも責任があります。これまで、原発をめぐる裁判では、原告側はことごとく敗訴してきました。マスコミも正しいことを報道してきませんでした。全てコントロールされて、世論がつくられてきたのです。そして、原発推進に都合の悪いデータは出さない。責任をとらず、批判に耳を貸さないような構造が全体を覆っているように見えます。

1107newspaper2.JPG高木学校で講師を務める崎山さん(右端・2010年1月)

──いわゆる「原子力村」と言われるような体制が、問題を引き起こしたとも言われます。
それは、日本人全体にも問題があるように思います。東京都知事選挙で石原慎太郎が4選を果たしたのもその表われでしょう。加藤周一さんの『日本文学史序説』(75・80年、大佛次郎賞受賞)がありますが、その中で加藤さんは、大勢に身を任せる日本人の精神のあり方を指摘しています。個人主義ができにくい「ムラ社会的」だとも言えます。
例えば今回のことでも、自治体はもっと自主性をもって、住民を避難させるなどの措置がとれたはずですが、そうしたこともない。主体性の無さが蔓延しているように思います。私もよく避難すべきかどうかの相談を受けますが、自分の命のことは自分で判断するように言っています。自分で判断しない社会がこうした事態を招いたとも言えます。
私は「憲法9条を守る会」の活動にも参加していますが、9条がなし崩しになってくる過程を見るとき、「流れ」に逆らうことが難しい日本社会の「ムラ的構造」に問題があるように思います。もっとみんなが意識的に変わらないと、間に合わないのではないかという危機感で一杯です。

〈インタビューを終えて〉
福島第一原発事故は、冷温停止の道筋もつかないまま大気や土壌、海洋への放射能汚染を拡大しています。日本社会が脱原発の道を選択し、全ての原子力施設を廃棄するとしても、数十年間は放射能被ばくと向き合いながら歩んでいかなければなりません。崎山さんが指摘するように、市民科学者を育て学校教育で原子力の危険性を学び、被ばくのリスクと立ち向かえる社会を築くことが、「国策」を変えられなかった私たちのせめてもの責任でしょう。あらためて脱原発社会への転換に向け、正念場の闘いを進めていかなければならないことを痛感しました。(藤岡 一昭)


「さようなら原発1000万人アクション」がスタート
1000万署名、5万人集会に全力で取り組もう

内橋克人さんなど著名人が呼びかけ
3月11日に発生した東日本大震災は、約2万3,000人の死者・行方不明者を出し、今もなお約12万5,000人の人々が避難生活を余儀なくされています(6月15日現在)。そして、福島第一原子力発電所の事故は、原子炉内の燃料の溶融や水素爆発にまで至り、放射性物質を周辺地域に拡散しています。
私たちは、人間の生存を脅かす計り知れない原子力エネルギーの恐怖に、多大な犠牲を伴いながら直面することになりました。エネルギー政策を根本から見直すことが求められています。「安全神話」のもとで、原子力政策を推進してきた政府、電力会社、産業界、原子力学会などの責任を厳しく求めると同時に、経済成長を求めエネルギー需要を拡大し続けてきた日本社会の暮らしや働き方の見直しも必要です。
平和フォーラム・原水禁は、原子力中心のエネルギー政策を見直し、自然エネルギーを中心とする「持続可能で平和な社会(脱原発社会)」を実現するため「さようなら原発1000万人アクション─脱原発・持続可能で平和な社会をめざして」に全力で取り組みます。運動の呼び掛け人に内橋克人さん、大江健三郎さん、落合恵子さん、鎌田慧さん、坂本龍一さん、澤地久枝さん、瀬戸内寂聴さん、辻井喬さん、鶴見俊輔さん(6月20日現在・五十音順)がなり、多くの人たちの参加を求めていきます。

原発の計画的廃炉、自然エネルギー中心へ
「さようなら原発1000万人アクション」の求めるものは、①原子力発電所の新規計画を中止し浜岡をはじめとした既存の原子力発電所の計画的な廃炉、②もっとも危険なプルトニウムを利用する高速増殖炉「もんじゅ」と青森県六ヶ所など再処理工場の廃棄、③省エネルギー・自然エネルギーを中心に据えたエネルギー政策への転換です。
そのための1000万署名に取り組みます。平和フォーラム・原水禁の加盟組織はもとより、関係する個人・団体、各戸訪問や街頭署名などを展開します。また、インターネット署名も行います。署名は来年3月11日の震災1周年に、衆・参両院議長、内閣総理大臣に提出するため、集約を9月10日(第1次)、12月20日(第2次)、2月28日(最終)とします。
9月19日(月・休日)に東京・新宿区の明治公園で「さようなら原発全国集会」を開催します。規模は5万人とし、13時から集会を開き、パレードも行います。集会に向けて、様々な団体や各地での集会開催や、キャラバン、自治体要請、ビラ配布などの多様な取り組みを行います。全国集会の前段の9月17日~18日には関連イベントも計画します。

「原発ゼロ社会」へ再生可能エネルギー推進法を
 こうした全国アクションを進めるために、ポスターやちらしの他、のぼり旗、パンフレット、ワッペンなどを作成して配布します。また、詳細や最新情報は下記のホームページでお知らせしています。「さようなら原発1000万人アクション」のニュースも発行します。
一方、全国アクションの一環として「福島へ、線量計を送ろう!」全国カンパも実施します。カンパは街頭カンパを主に、署名行動と結びつけて運動の広がりを求めていきます。さらに、原水禁のプロジェクトがこれまで提起してきた「2050年原発ゼロ社会」をめざして、「再生可能エネルギー推進法(日本版脱原発法)」の制定を求めて、民主党・社民党などの政党や「日本のエネルギー政策を考える勉強会」などの議員の皆さんと協力して政策転換をめざして取り組みます。今夏の原水禁世界大会も全国アクションと関連させて取り組みます(次頁参照)。

●さようなら原発1000万人アクションHP
署名用紙やチラシをダウンロードできます。


被爆66周年原水爆禁止世界大会の課題
今年は福島、沖縄でも開催

核社会を問う大会
 3月11日に起こった東日本大震災は、東日本一帯に大きな被害を与えました。その中で福島第一原発が電源喪失、水素爆発そしてメルトダウン(メルトスルーも想定される)というこれまでの原子力史上最悪の事態を迎え、いまも事態の収束が図られていません。今後も長期に渡っての放射能放出とともに被害の拡大が懸念されています。この事態を受けて、原水禁世界大会も見直しを迫られ、広島大会、長崎大会(8月4日~9日)に加え、福島大会(7月31日)と沖縄大会(8月11日)を実施することになりました。
福島原発事故は、国内外に大きな影響を与える事故でした。ただ単に、この事故を原発のエネルギー政策の可否を問うものだけでなく、私たちの命や暮らし、社会、経済、環境そして思想など多くの分野でこれまでのあり方を問う大きな出来事でした。「核社会」や「核文明」そのものを問う出来事であるとの認識のもと、大会の基調を提起します。
福島と沖縄を加えたことは、原発問題も基地問題も、交付金などで地域の住民世論を抑え、危険を背負わされていく構造は同じであると考えるからです。地域の発展が、原発や基地経済だけに縛られるようになり、他の選択肢が無くなっていく中でさらに、その経済に依存を増していくという構造があります。その上に都市部を中心とする地域の繁栄が築かれるという、ある種の「地域差別」の構造を見つめ直さなければなりません。まさに私たちの暮らしや社会のあり方が問われています。さらに沖縄では平和課題が大きくあります。
その上でこれまで同様、「核兵器廃絶の課題」、「脱原発の課題」、「ヒバクシャ援護の課題」の三つの柱を中心に今回の原発事故を絡ませながら、それぞれの課題を深めていきます。

核兵器廃絶の課題
 2010年のNPT(核拡散防止条約)再検討会議では、2000年に合意された「核保有国による核廃絶への明確な約束」があらためて確認され、「2012年に中東の非核化についての会議の開催」などいくつかの核軍縮に向けた合意が採択されました。今年の2月には、米ロの間で新STARTが発効しました。その後の具体的な核兵器廃絶への動きを検証し、今後の私たちの運動の展望を確認します。特に、私たちを取り巻く東北アジアをめぐる平和と安全をどのように考え、つくり上げるか、北朝鮮の核問題を含め、私たちが長年訴えている「東北アジア非核地帯化構想」をどのように具体化していくのかを提起していきます。さらに、福島原発事故がもたらす核被害が、核兵器による被害の一端を表わしています。そのことからも核兵器廃絶の必要性を強く訴えたいと考えています。

脱原発の課題
 福島第一原発事故は、「原子力安全神話」を徹底的に崩壊させました。あらためて脱原発を強く主張しなければなりません。原発の段階的廃棄をめざす具体的な政策と運動の展開が求められています。すでに現在、鎌田慧さん、大江健三郎さん、澤地久枝さんら9名の著名人による呼びかけで、「さようなら原発1000万人アクション」として、原子力政策の転換を求める「さようなら原発1000万署名」や「9.19さようなら原発集会」(東京・明治公園)が提起されています(前頁参照)。それらの動きと連動した訴えを重ねていきます。さらに、原発に頼らないエネルギー政策の具体的展開を提示していくことで、「原発はなくても大丈夫!」という裏付けを示していきます。

ヒバクシャ援護の課題
 3.11以降、ヒロシマ・ナガサキに続く新たな核被害が原発事故によってもたらされようとしています(例えば原発労働者では、124人も100ミリシーベルトの被曝量を超えているヒバクシャが出ている/6月20日)。被曝労働で成り立つ原発の存在そのものも問題になっています。「ヒバク」そのものを問う必要があります。さらに、今年はチェルノブイリ原発事故から25年が経ちましたが、現地ではいまだその被害に苦しんでいる多くの方がいます。国際ゲストもロシアの汚染地域からお呼びし、その実態を伺います。
ヒロシマ・ナガサキの被爆者の問題でも、66年経ったいまでもその被害に苦しんでいる方々が多数存在します。被爆体験者問題、在外被爆者問題、被爆二世三世問題など、残された課題が山積しています。被爆者の残された時間は限られています。国家補償も含め課題の前進をめざしていかなければなりません。
福島原発の事故は不幸にも、私たちが主張していた「核と人類は共存できない」ことを示しました。あらためて核の軍事利用も商業利用も、核被害に苦しむということでは同じであることが明らかとなりました。原水禁大会を起点に反核・脱原発をあらためて確認したいと思います。


ヨーロッパ・自然エネルギー調査に参加して

全日本水道労働組合 禧久 章蔵

軍隊の撤退跡地に「持続可能なモデル地区」
平和フォーラム・原水禁の「ヨーロッパ自然エネルギー調査団」の一員として参加した私は、ドイツ到着早々、素晴らしい街に巡り合えました。その街とは、ドイツ南西部に位置し、フランスとスイスの国境に接するバーデン=ヴュルテンベルク州フライブルグの郊外にあるヴォーバン(Vauban)地区です。
フライブルグは別名「環境首都」と呼ばれ、黒い森として有名なシュヴァルツヴァルトの南に位置し、70年代に酸性雨問題や原発立地問題などから環境政策を推進し、廃棄物のリサイクル、自然エネルギー、交通政策、都市計画・景観政策などで先進的な事例をいくつも実践している都市であり、今日では大学・研究機関が集積する学術都市としても有名です。
ヴォーバン地区は、もともと東西冷戦下ではフランス軍が駐留地として使用していた地区であり、冷戦終結後フランス軍が撤退した跡地に「持続可能なモデル地区」として行政・住民が一体となって90年代後半以降につくられた新しい街です。
案内をしていただいたフライブルグ在住の環境・建築ジャーナリストの村上敦さんによると、ヴォーバン地区のすべての住宅は、低エネルギー消費仕様(40%以上カット)で建てられており、その内の100戸ほどの住宅は、パッシブデザインの超低エネルギー住宅となっているそうです。パッシブデザインの住宅とは、「機器などのモノを用いず、『自然にあるもの』を用いる」ことを現わします。つまり、「エアコンなどの機器を出来るだけ使わず、『自然にあるもの』によって、快適な暮らしをしようとする設計思想・設計手法のことを言います」となっています。

街全体が環境をコンセプトに調和
素晴らしいのは、街全体が環境をコンセプトに調和していることです。まず、公共交通機関(LRT=路面電車)を事前整備し、自動車を副次的交通手段に位置づけています。既存の建物や植生を取り壊し・伐採をしないで活かすとともに、地形をも活用して街全体に風が流れるように配置することで、夏はエアコンいらず。集合住宅を活用し、1ヘクタール当たりの人口密度を130人~150人に設定したことで、LRTは採算が採れるとともに、住宅地内に小規模の商業施設や雇用(人口の10~15%程度)を確保できるように設計されています。
さらに、宅地部分は自家用車の駐車場設置を禁止。駐車場は街の中心部に1,000台収容の立体駐車場がありますが、住民の皆さんは駐車場よりもLRTの停車場が近いため、駐車場はガラガラでした。また、街の動線が車ではなく、歩行者・自転車のための設計になっているため、どこの路地でも子どもたちが安全に遊べる場となっています。全ての建物の屋根は屋上緑化、もしくは太陽熱発電などを備えており、ヒートアイランド対策のみならず、雨水が一気に流出しない措置が施されていました。

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太陽光パネルをつけたモデル住宅(フライブルグ)

日本にも「ヴォーバン地区」を
紙面の都合で素敵なヴォーバン地区の全てを紹介できませんが、一つ悩ましい問題を抱えています。隣国のフランスは電力の約8割を原発に依存する原発推進国ですが、そのフランスで最も古い原子力発電所から20㎞圏内にヴォーバン地区は位置し、しかも、季節によっては原発の風下になるとも言うことです。
ちょうど、私たちは福島第一原発事故後の調査団でしたので、もし同様の事故が発生したら、この街はどうなってしまうのか。他国の政策に口を出すのは内政干渉になるので非常に難しい問題ですが、ドイツで脱原発政策を進めてきた緑の党では、欧州議会にも議員を送り込んでいるということで、「原発廃止に向けて」フランス政府に要請をしていくとのことでした。
今、東北3県は地震と津波により街が壊滅してしまった都市が多数あります。再生・復興に向けて様々な話し合いがもたれていますが、ぜひヴォーバン地区を参考にして「原発に依存しない」、そして持続可能な再生エネルギーを最大限活用して、街中から子どもたちの活気あふれる声が聞こえる街、世界中から視察に訪れるようなすばらしい街が日本にもできたらと感じました。


世界の核兵器の状況を考える(3)
核軍拡が中・印・パ3国で急拡大

軍事大国化をひた走る中国
中国は国防費を年々10%台で伸ばしています。(昨年だけ7.5%)。今年度も12.7%の伸びです。しかも、世界の軍事力を分析している「ミリタリーバランス2011」(3月8日発表)によると、兵器の研究・開発費、物価の格差などを考慮すれば、実際の2倍以上と指摘しています。さらにこうした軍事力増強の懸念が、東シナ海、南シナ海、インド洋の各地域に広がっていると指摘しています。
具体的に見てみましょう。中国はこれまで射程12,000㎞~13,000㎞の大陸間弾道弾・ICBM(液体燃料、「東風5」)を約20基配備していましたが、新たに射程8,000㎞~14,000㎞の固体燃料・移動式ICBM(「東風31」)を20基ほど配備していると推定されています。東風31はMIRV(多弾頭)ミサイルで、中国の軍事技術の発展をも示すものです。中国は他に長射程の巡航ミサイルも保持しています。
さらに中国は、海軍力の強化も図ってきました。現在、「漢級」、「商級」の攻撃型原潜のほか、射程2,000㎞のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)12基搭載の戦略原潜(「夏級」)のほか、射程8,000㎞のSLBM搭載予定の戦略原潜(「晋級」)を就役させています。原子力空母の建設計画も明らかになっています。こうした中国の軍事力増強は、圧倒的な軍事力で、第一列島線・第二列島線(中国の海域における軍事防衛ライン)と、中国を牽制してきた米国軍産複合体の戦略によるものでもあります。中国と米国との軍事力格差はまだまだ大きく、中国の軍拡は今後も続くでしょう。
日本はどうするのか。日本政府にはただ米国の軍事戦略に協力し、沖縄先島に自衛隊駐屯を進めるなど、中国と対立・対抗以外の外交戦略は持っていません。福島第1原発事故の収束のメドも立たない中、アジアの国々とどう共生の関係をつくっていくのか、転換のときを迎えています。

中国の後を猛追するインド
中国の軍事力増強に強く反発するインドは、積極的な軍事力増強に動いています。6月7日、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、2006年~10年の5年間の兵器購入額は、インドが9%と世界一になったと報じました。05年~09年は中国が1位(9%)、インドは2位(7%)でしたが、1年で中国を抜いたのです。最大の購入先は、インド、中国ともロシアです。
インドは早くから最小限の核抑止力を唱え、中国10都市、パキスタン5都市への報復用として、1都市に20キロトン核爆弾3個、不発の場合も含め、命中率を30%、さらに破壊される分も計算に入れて、90~135個の保有が必要であるとしてきました。
現在インドは、射程3,500㎞の中距離核ミサイル「アグニⅢ」を保有していますが、さらに射程5,000㎞のICBM「アグニⅤ」を開発中です。この他、核爆弾搭載可能な戦闘爆撃機、SLBMが発射可能な原子力潜水艦「アリハント」を09年7月に就航させて、2番艦の建造計画も進めています。07年からは巡航ミサイルを保有しています。

過剰な核施設建設に動くパキスタン
一方、インドの隣国パキスタンはインドの軍事力に過剰に反応し、核軍事力を増強させています。これまでパキスタンは、中国と北朝鮮の技術協力を受けて「シャヒーン」「ガウリ」の二種類の短距離、中距離の核ミサイル開発を競っていて、すでにインド全土を射程に収める核ミサイルを保有しています。
さらに、中距離弾道ミサイル「シャヒーンⅢ」や、人工衛星搭載可能なシャヒーンⅢLVロケットの開発を進めていて、今年中に人工衛星を打ち上げる可能性もあると言われています(なお、インドはすでに多くの人工衛星を打ち上げ、成功させている)。
またパキスタンは、プルトニウム爆弾開発のための原子炉を次々と建設しています。1996年に最初の重水炉の稼働を始めてから、現在2基が稼働中で、さらに07年に3基目、今年2月には4基目の建設も確認されています。
プルトニウムを取り出す新たな再処理工場も建設されており、この再処理工場が稼働を始めると、年間100トンの使用済み核燃料の再処理が可能であると伝えられています。これら全ての核施設が稼働するとしたら、パキスタンの核物質の保有は、余りにも多すぎます。
米国はアフガン侵攻作戦のために、パキスタンの核戦略物質製造を黙認していますが、アフガン状勢の推移、パキスタン政治の動向によっては、世界の安全を不安定にする可能性があります。
このように核拡散防止条約(NPT)の期待とは裏腹に、中・印・パでは、核兵器の拡散という負の連鎖が続いています。


《各地からのメッセージ》
脱原発・反基地の取り組みを柱に47年

茨城平和擁護県民会議  事務局長 相楽 衛

茨城平和擁護県民会議は、1963年の原水禁世界大会での「いかなる国の核実験にも反対」をめぐる分裂で翌64年に結成、今年47年目を迎えます。現在13団体と個人会員、7地区組織で構成、原水禁・護憲・反基地を柱に活動しています。県内には東海村を中心に多数の原子力施設があり、脱原発と自衛隊百里基地での米軍再編に伴う日米共同訓練反対運動は重要な柱です。
3月11日の東日本大地震では県内でも、死者24人、行方不明1人、負傷者693人の人的被害を受けました。そして、福島第一原発事故で大量の放射性物質が放出され、隣県である茨城では放射線量の高い数値を観測しました。
東海第二原発も大地震後、「原発は安全に停止」との報道の影で外部電源喪失、大津波の浸水でディーゼル電源3台のうち1台が喪失する重大事故が発生。津波があと30センチ高く、全電源を失えば福島第一原発と同様の事態につながるものでした。
茨城では、12年前のJCO臨界事故以降、毎年集会を開催してきましたが、「原子力災害は起きる」という教訓を学ばず、「原発は安全、事故は起こらない」としてきたことが今回の事故につながっています。
4月14日には、市民団体7団体で日本原子力発電東海事業所、日本原子力研究開発機構、茨城県に対し、今回発生した事故の情報公開と「プルサーマル計画を放棄し、老朽化と地震の影響を受けた東海第二原発の運転再開の断念」を緊急申し入れました。

5月になり日本原電は、東海第二原発の「地震・津波の緊急安全対策」として、15mの津波を想定した防潮堤新設や大容量の代替電源配備等を発表し、「運転再開は白紙」「プルサーマルは手続き開始を見送る」としましたが、これは津波対策さえ行えば、運転再開やプルサーマルもめざすものであり、認めるわけにはいきません。
昨年12月には、原水禁や原子力資料情報室、関東ブロックの各平和運動センターの賛同を得て、「東海第二原発のプルサーマルに反対する連絡会議」を結成しましたが、引き続きプルサーマルを断念させ、東海第二原発を廃炉にするためにがんばっていきます。

1107newspaper3.JPG昨年9月26日のJCO臨界事故11周年のデモ

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