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【ニュースペーパー2010年11月号】原水禁関連記事
2010年11月01日
●六ヶ所再処理工場が竣工を2年延期
むつ市に使用済み燃料の貯蔵施設を建設
原子力資料情報室 澤井 正子
●30万を超える署名を提出し、見直しを求める
大詰めを迎える「被爆体験者」訴訟
全国被爆体験者協議会事務局 岩永 千代子
●軍事力強化では解決しない時代に入った
新しい東アジアの関係構築へ
●上関原発建設予定地は
生物多様性のホットスポット
長島の自然を守る会 高島 美登里
六ヶ所再処理工場が竣工を2年延期
むつ市に使用済み燃料の貯蔵施設を建設
原子力資料情報室 澤井 正子
ガラス固化技術の開発は完全に失敗
9月10日、日本原燃は六ヶ所再処理工場の稼働開始予定を、今年10月から2012年10月に延期すると発表しました。操業延期は実に18回目のことです。
施設は2006年3月末から最終的な運転試験を行っており、すでにウラン、プルトニウムの分離試験は終了しています。しかし高レベル放射性廃棄物をガラスと混ぜて固める最後のガラス固化体製造試験で事故・トラブルが続発していることが、延期の最大の理由です。
ガラス固化体製造試験は2008年11月から開始され、約3年が経過しています。その間、溶融炉での温度管理の失敗から溶融ガラスの流下が停止しました。この対策として溶融炉への撹拌(かくはん)棒を設置したのですが、炉内の撹拌棒の変形(曲がり)と天井耐火レンガの脱落事故、この事故対策中に高レベル放射性廃液約150リットルの漏えい事故が発生と、トラブル、事故の連続でした。溶融炉の技術開発が未熟だったことから、トラブルが頻発し、それが新たな事故を発生させるという悪循環が続いてきたのです。
そのため、延期される2年間(24ヵ月)のうち大部分の18ヵ月は、2基(AとB)あるガラス溶融炉へ温度計を設置するなどの改造工事と運転データの検証作業に費やされます。本来の高レベル廃液を使ったガラス固化試験は、残り6ヵ月で2基の試験を終了する予定となっています。しかし今までの実績から、とてもこのような期間では不可能と考えられます。
今回の延期は、すでに商業施設として建設された六ヶ所工場で約2年をかけて事実上技術開発をやり直すことを意味しています。
燃料備蓄センターは「金のなる木」
一方、六ヶ所再処理工場の操業延期公表前の8月31日、同じ青森県むつ市で「リサイクル燃料備蓄センター」の建設が開始されました。これは、原発であふれた使用済み燃料を長期間貯蔵する施設です。建設・運転するのは、東京電力と日本原子力発電が2005年に共同出資して設立したリサイクル燃料貯蔵株式会社です。
計画では、両社の原発(敦賀1号機を除く)で発生する使用済み燃料を、輸送・貯蔵兼用金属容器に建屋2つで最大約5000トン貯蔵します。着工された1棟目の容量は約3000トンで、2012年7月の操業予定です。
この施設の建設が比較的順調に進んだのは、むつ市が財政的に困窮状態であったためです。1988年4月から2009年3月までで約220億円を超える交付金が国から支給され、あらゆる市政運営に支出されました。交付金以外にも東京電力と日本原子力発電が15億円を寄付するなど、施設は「金のなる木」となっています。しかし使用済み燃料を貯蔵するだけの施設なので、操業後の地元雇用はほとんどありません。
18回目の稼働延期が決まった六ヶ所再処理工場(2008年5月)
「脱再処理」も選択肢に入れる東京電力
六ヶ所再処理工場の竣工2年延期と使用済み燃料中間貯蔵施設の着工という二つの事実は、重要な意味を持っています。備蓄センターの操業開始は、延期された六ヶ所再処理工場の操業より早いのです。たとえ六ヶ所再処理工場が再び操業を延期しても、大量の使用済み燃料を保持する東京電力は使用済み燃料の「輸送先」には困りません。というより「備蓄センター」の着工によって、六ヶ所再処理工場の竣工は事実上大幅延期が可能となったのです。これは同時に再処理工場が必要不可欠な施設ではないことも意味しています。
原発が必要としているのは、「再処理工場」ではなく「燃料貯蔵プール」だったのです。日本原燃の川井吉彦社長が「これが最後の延期」と強調しているのは、2年後に再び延期というような事態が許されない可能性も示唆しています。東京電力が使用済み燃料の中間貯蔵という「柔軟性」を得て、同時に「脱再処理」という選択肢をも視野に入れていることを、私たちは見逃してはならないでしょう。
30万を超える署名を提出し、見直しを求める
大詰めを迎える「被爆体験者」訴訟
全国被爆体験者協議会事務局 岩永 千代子
私たち全国被爆体験者原告団のための署名活動に多大なご支援とご協力を頂き、心から感謝申し上げます。全国各地から続々と送られてくる署名簿。10月4日で300,327筆となり、さらに増える見込みです。本当にありがとうございます。11月17日頃には厚生労働大臣へ届ける予定です。皆様のご協力をバネに一層、私たちの運動を強化しようと決意を新たにしております。
非科学的な行政の線引き
1957年、南北に長いいびつなかたちの旧長崎市と隣接する一部の村が被爆地として政令で認定されましたが、東西に住む私たちは認められませんでした。上空500mで炸裂した原子爆弾から放出された放射線が、行政区の線引きに沿って降ってきたとでも言うのでしょうか。これは全く非科学的で、合理性がありません。そこで、県と市議会、住民が一体となり、国に対し被爆地拡大運動を繰り広げてきました。
国は1974年・76年と「当分の間、『被爆者とみなし健康診断の特例措置の対象とする者』(法附則第17条:別表第3)として、疾病の状況により被爆者健康手帳の交付を認める」ようになりましたが、被爆地としては認めませんでした。国が旧長崎市と一部の隣接地のみを被爆地としたのは、これ以上被爆者・被爆地を増やさないという非科学的な国策に終始したからです。
私たちが残留放射線により内部被爆していることは事実です。国は2002年4月から爆心地より12kmの圏内を対象に予算事業として被爆体験者事業を始めました。これは74年・76年と全く同等の「被爆者とみなし健康診断の特例措置の対象とする者」のはずなのですが、現実は「法附則第17条(別表第4)」として、私たちを「被爆体験者」と名付けて差別したのです。
立ちふさがる居住要件の壁
これは、いわゆる心的外傷後ストレス障害(PTSD)に起因すると思われる疾病のみ、認定する省令でした。とはいっても、厳格な審査に合格して被爆体験者医療受給者証の交付があれば、がん・感染症・けが以外の医療給付が受けられたのです。被爆者が受給している、がん・白血病・甲状腺の疾患などは認められず、健康管理手当や、その他の給付も受けられませんでしたが、納得せざるを得ない状況でした。
しかし、ここで浮上したのが居住要件の壁でした。受給するためには現在も12km圏内に居住していなければならないというのです。当時圏内に居住していても、現在住んでいなければ認めないというのです。そこで是正しようと立ち上がったのが、訴訟への端緒でした。
やがて、国はそれを「見直す」作業を始めました。5回にわたり検討委員会を立ち上げた結果、居住要件の壁を県内のみ外したのですが、県外は未だそのままです。次に今度は、スクリーニング検査(条件に合うようにふるいにかける検査)が課されました。その結果、それまでに被爆体験者医療受給者証を交付されていた人でも、「記憶が無い」ことを主な理由に約3,200名の受給者証を取り上げてしまったのです。
訴訟原告団の国会要請行動(参議院議員会館・5月12日)
3年目を迎える訴訟に今後ともご支援を
このように施策は二転三転し、右往左往させられた高齢者である私たちにとっては、まるでいじめに合っているかのようでした。中には「もう(手帳は)いらん。手続きも面倒だし、(自分は)あと何年生きられるかわからん」と投げやりになる人もいました。判定の基準も曖昧で信頼できず、仮に被爆体験者精神医療手帳を受給しても、80種の疾病にしか使えない、と手帳取得をあきらめている人が多くいます。80種の疾病の中には、月経困難、二日酔い、インポテンツ等が含まれています。これらの対象疾病が70代、80代の人々に必要なものでしょうか。全く現実に即しておらず不可解な内容です。
2007年11月15日、何とか提訴に踏み切り、今年で3年目を迎えます。体力も知力も無い私たちですが、今後とも皆様のご支援をよろしくお願い申し上げます。
軍事力強化では解決しない時代に入った
新しい東アジアの関係構築へ
尖閣諸島沖での中国漁船船長の逮捕・釈放の問題は現在もなお、尾を引いています。船長逮捕の翌日に、中国では全国の新聞がトップで報じました。日本では一部マスメディアは、反中・ナショナリズムを煽り続けています。日中関係はいずれ正常化されると思いますが、今回のような事件は今後も起こりうるので、事実関係とともに、背景にある米中の軍事的関係の変化、日本にどう影響するかを考えてみます。
米中軍事交流の再開を求める米国
今年8月7日、中国国防大学・戦略研究所所長の楊毅少将は中国メディアに対して「中国の海洋進出は必然で、どんな包囲網も海軍の歩みを阻止できない」と述べ、米国の中国包囲網である第1列島線(日本列島、沖縄、台湾、フィリピン、インドネシアと伸びる海洋水域)の突破を明言しました。(共同通信10月8日)。この背景には、2010年に第1列島線内の制海権を確保するという目標があり、この目標に沿った中国海軍の躍進と、第1列島線の外側で制海権を保持する米国に対する強い反発が存在すると言えます。
まず今年1月、中国はオバマ政権が台湾に65億ドルの武器売却を決定したことに反発し、米中軍事交流を中止しました。しかし米国は、韓国哨戒艦沈没事件が北朝鮮の魚雷攻撃によるとした韓国の結論を支持し、米韓合同演習を7月25日~28日、9月27日~10月1日の2回にわたって実施し、中国人民解放軍を刺激し続けました。この米中による軍部の対立は、今年6月初めにシンガポールで開かれたアジア安全保障会議で、ゲーツ米国防長官が、米国が台湾に武器を売ったことを理由に米中軍事交流を中断していることを非難。これに中国人民解放軍の馬暁天副参謀総長が激しく反論する事態まで起こっています。
中国人民解放軍・海軍がめざましい発展を遂げているのは事実で、弾道ミサイル搭載の戦略原潜や攻撃型原潜を保有しているだけでなく、長射程の巡航ミサイルや中距離ミサイルの開発も進んでいて、第1列島線はほぼ中国海軍の支配下にあるという状況です。
沖縄に存在する米軍基地は対中有事の際、一瞬にして壊滅すると危惧されています。このため米国は対外基地のあり方の再検討を迫られていて、中国を対象とした小型潜水艦などの建造を急ぐ一方、米中軍事交流の再開を強く求めているのです。
尖閣諸島の魚釣島(毎日新聞HPより)
尖閣諸島の領有権問題、外交が重要に
尖閣諸島に領有権問題が存在することは、否定できません。米軍は太平洋戦争で沖縄を占領し、長く支配してきました。1972年に沖縄は日本に返還されますが、その前年の71年6月に台湾が、さらに12月に中国が尖閣諸島の領有権を主張します。
このため、沖縄返還交渉に当たった当時のキッシンジャー米国務長官は、尖閣諸島の帰属については、どちらにも与さない方針を決めました。この方針は、オバマ現政権でも継承されています。
9月23日、前原誠司外相がクリントン米国務長官と会談し、クリントン長官が「尖閣諸島は日米安保条約の適用対象」と発言したと、日本側が記者発表し、日本では大きく報道されました。しかし、これは一方的な報道で、国務省は在米日本大使館に訂正を申し入れました。
クローリー米国務次官補は、「米国は日本に漁船衝突事件で日中両国が対話を強化し、早期に解決するよう求めた。尖閣諸島の領有権が日中両国のどちらにあるかについて米国は立場を明確にしない」と発表しており、多分この発表が正しい内容でしょう。
10月11日にハノイで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)国防相会議で、米・ゲーツ国防長官と中国・梁光烈国防相が会談し、米中軍事交流再開で合意しました。
米国は8月16日に発表した「中国軍事動向に関する年次報告書」で、中国軍が東シナ海や南シナ海の領有権問題などに対処するため、新たな能力を獲得しようとしている」と懸念を表明しましたが、経済的には米国は中国との一層の協力関係を必要としているのです。
今年12月、日本は新たな防衛大綱を作成します。どのような内容になっても、日本が軍事的に中国と張り合うことは不可能な時代に入ったことは認識しなければなりません。米軍との一体化ではない、新しい東アジア関係構築の戦略が求められているのです。
長島の自然を守る会 高島 美登里
埋め立て工事を許さない闘い
山口県上関町の上関原発建設計画予定地では、2008年10月の県知事による埋め立て許可から2年が経過しようとしていますが、地元の祝島や全国の反対の声に阻まれ、中国電力は本格的な埋め立て工事に着手できていません。その焦りからか、陸域準備工事で下請け業者が祝島の80歳の女性に対し乱暴を働いたり、深夜に急遽、作業台船を移動させたりするなど、常軌を逸した危険な行為が後を絶ちません。10月15日には予定地沖に大型台船3隻を移動させようとしましたが、祝島の漁船をはじめとする海と陸の抗議行動に阻まれ、同17日現在は周辺海域に立ち往生しています。
希少生物の宝庫は「最後の楽園」
私たちはこれまで、日本生態学会・日本ベントス学会・日本鳥学会などの研究者とともに10年間調査活動を続けてきました。その結果、予定地周辺が世界的に珍しい希少生物の宝庫であり、豊富な湧水によって、瀬戸内海でもまれにみる水循環の良さが、貴重な生態系を生んでいることを明らかにしています。瀬戸内の「最後の楽園」であることが解明されたのです。
埋め立てはこうした生物多様性の宝庫を根こそぎ潰してしまいます。水産庁が指定する危急種であるナメクジウオや、本来は日本海にしか生えない海藻であるスギモクが飛び地的に生育している浅瀬はすべて無くなってしまいます。世界で1個体しか確認されていないナガシマツボや、貝類の進化のカギを握るヤシマイシン近似種の棲む潮だまりは、研究者や私たちの指摘で辛うじて残されることになりましたが、彼らが生き残れるという科学的根拠は何も示されていません。
また、周辺海域は世界最小のクジラであるスナメリの子育ての場所であり、国の天然記念物であるカラスバトも周囲の島々で確認されています。最近の調査で国際自然保護連合(IUCN)絶滅危惧種であるカンムリウミスズメが世界で唯一、1年を通して生息しているばかりでなく、予定地あるいは周辺海域で繁殖している可能性も出てきました。
しかし、中国電力は09年9月に「上関地点カンムリウミスズメ継続調査報告書」を公表し、「繁殖の可能性はほとんどない」と結論づけています。この調査結果は、非常に不十分なもので、結論も時期尚早なものです。今すぐ、埋め立て工事を中止して、生態調査を再開すべきです。また、オオミズナギドリの世界初の内海繁殖地であり、採餌(さいじ)範囲もこの海域に限定されている可能性を示す調査結果も出ています。埋め立てはこうしたスナメリや海鳥の繁殖や育雛(いくすう)環境も潰してしまいます。
周辺海域での生息が明らかになったカンムリウミスズメ(3月30日)
COP10のモデルとして誇るべき地域
地元の漁師さんは田ノ浦湾を「魚たちのゆりかご」だと呼んでいます。ここで育まれた豊かな餌資源があるから、多くの鳥やスナメリも生息でき、漁業で食べてゆくこともできます。上関の海は人間にとっても、他の生き物たちにとっても、「いのちの海」なのです。
長島・祝島は生物多様性豊かで将来に向けて持続可能な自然との共生が実現しています。まさに、10月18日から29日まで開催された、10回目の生物多様性条約締約国会議(COP10)のモデルとして、日本が世界に誇るべき地域です。
生態系の豊かさだけではありません。祝島の方たちは資源を大切にした伝統的な「一本釣り漁業」を主体に営んでいます。そして、農業の主体であるビワはほとんどが無農薬栽培です。最近では、放棄水田や畑で循環型の牛や豚の放牧も始められました。まさに現在進行形で「未来に向かって持続可能な社会づくり」が行われているのです。
今後、周辺海域を含む瀬戸内海の環境保全が、国家戦略の中に明確に位置づけられ、上関原発計画が中止されるよう、国際的な世論にも訴えかけていく必要があります。