「大飯原発3,4号機運転差し止め請求事件」での福井地裁判決への原水禁声明
原水爆禁止日本国民会議 議長 川野浩一
「被告(関西電力)は、大飯発電所3号機及び4号機の原子炉の運転をしてはならない」
5月21日、福井地方裁判所民事第二部(樋口英明裁判長)は、原発訴訟では3例目、2011年3月11日の福島第一原発事故以降では初めてとなる、原告(住民側)勝訴の判決を言い渡した。
判決は、「基準地震動700ガル、その1.8倍の1260ガルの震動に耐えられる」とする関西電力の主張を、「大飯原発には1260ガルを超える地震は来ないとの確実な科学的根拠に基づく想定は本来的に不可能」、日本において「このような地震の発生を予知できていないことは公知の事実である」として、関電の主張を超える地震が起こりうる可能性があると排除した。判決文は、全体を通じて、原発事故の重大さに鑑みて安全性を阻害する事象の可能性を否定できなければ稼働させることはならないとの考えを基本にしている。
原子力規制庁は、福島原発事故の知見に基づき作成された「新規性基準」に基づく適合審査を進めている。政府は、「世界最高の基準」としているが、判決は、「原子力発電技術の危険性の本質及びそのもたらす被害の大きさは、福島原発事故を通じて十分明らかになったといえる」、地震が福島原発に与えた影響は「確定していない」、「福島原発事故においてもその原因を将来確定できるという補償はない」として、その考え方自体を否定している。
憲法が規定する個人の生命、身体、精神および生活に関する利益(人格権)に言及し、大きな自然災害や戦争をのぞくと、人格権を広汎に奪う事態が想定されるのは原発事故以外に想定できないとして、「人格権と電気代の高い低いの問題を同列に扱うことはできない」と断言している。
判決は「原発の運転停止による多額の貿易赤字が出るとしても、それを国富の流出や喪失と言うべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている」と記した。そこには、原発及び原発推進政策の非倫理性をついた、極めて重要な指摘である。高度経済成長の時代は終焉した。文明がもたらす豊かさが何かを問う力をこの判決は持っている。
原水禁は、科学技術によって人間の生存が脅かされることがあってはならないとし、「核と人類は共存できない」と核兵器はもちろんのこと原子力の平和利用にも反対してとりくんできた。本判決は、まさしく私たちの市民の命の尊厳にたった画期的な判決として、心から歓迎する。
政府は、「原子力規制委員会の新規制基準への適合審査が終了次第、原発を再稼働する」という従来の方針に変わりはないとした。その根本には、市民の命などさほどのものではないとする考えがある。原水禁はその考えを決して許さない。東日本大震災及び福島原発事故以来主張してきた「一人ひとりの命に寄り添う社会」と言う考え方を基本に、「脱現発社会」を求めるとりくみを一層強化する。