実用化の見通しのないもんじゅを廃炉に
福島燃料プール危機の教訓
全国の原発でプールから乾式に
勢いづく韓国の脱原発運動
実用化の見通しのないもんじゅを廃炉に
1995年12月8日、高速増殖炉もんじゅは、試験運転中にナトリウム漏洩火災事故を起こして以来、まともに動いたことがありません。2010年5月に性能試験運転を再開しましたが、8月には炉内中継装置の落下事故を起こし、再び停止となり今日に至っています。もんじゅは、「メーカー丸投げ」で作ってきたことにより、運営側の原子力研究開発機構(旧動燃)側に設計ミスを見抜く能力がないとも言われています。さらに当初から開発に携わってきた開発担当者は退職しており、人材面からも問題となっています。
さらに、建設から20年以上が経過しており、老朽化が指摘されています。現にいまなおナトリウム漏えい警報の発報が続いています。このまま運転を再開することは事故のリスクが非常に高いと言わざるを得ません。そもそも佐藤一男元原子力安全委員長が、もんじゅの設置許可無効確認裁判で証言したように、「現在の安全基準では許可は出ない」代物で、この発言からすれば、もんじゅの許可は無効となるはずです。
直下には地震を引き起こす活断層
2012年12月10日、原子力規制委員会は、日本原子力発電敦賀原発(福井県敦賀市)の原子炉直下にある破砕帯が「活断層の可能性が高い」とし、「今のままでは再稼働の安全審査はとてもできないと判断した」としました。それにより敦賀1、2号機の再稼働は困難となり、特に原子炉直下に活断層が走る敦賀2号機は廃炉の可能性が高いと言われています。今回の問題は、敦賀原発だけでなく若狭湾全体で活断層の見直しが問題となってきます。
もんじゅも例外ではありません。もんじゅは、施設直下にマグニチュード6.9の地震を引き起こす2本の活断層(破砕帯)があることが明らかになっています。これまで政府は活断層の真上に原発は作らないと説明していましたが、直下に活断層があることが隠せないとなると、今度は、計算を弄して、耐震安全性バックチェックを承認しました。「もんじゅ」の試験運転の再開を優先した対応だったことは言うまでもありません。
新しい原子力規制委員会は、断層の見直しを進め、最新の知見を遡及させるとして、今回敦賀原発については上記の見解を出しましたが、もんじゅについても厳格に調査し、判断するべきで、原子力施設の安全確保にとっては極めて重要なポイントです。もんじゅのある敦賀半島は、ひずみエネルギーが蓄積された空白地域であるため、地震学者が「原発震災」を警告している要危険地域です。
今後、敷地内断層の見直しが行われ、シビアアクシデント対策が求められますし、これまで軽水炉の放射能の拡散予測が発表されていますが、もんじゅや六ヶ所再処理工場などは、そのような放射能の拡散予測すらなされていません。防災対策を練り上げる上でも想定されるシビアアクシデントの内容も重要であり、周辺の自治体にとっても対応が求められています。
高速増殖炉開発からの撤退を
1950年代から始まった高速増殖炉開発は、これまでに実用化できた国はなく、開発先進国はすべて撤退しました。インドや中国を引き合いに出しても、実用化の展望などありません(旧ソ連は高濃縮ウラン燃料)。原子力委員会原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会の資料ですら、高速増殖炉の実用化は早くても60年先としていました。
そのような中で、民主党政権において「革新的エネルギー・環境戦略」が発表され、もんじゅについては、研究炉として廃棄物の減容化や有害度の低減の研究を行って廃止するとされました。5年ほど研究しての廃炉ではどれだけの成果が見込めるのかも不透明です。
しかし問題は、それを目的とした実用炉(大型炉)を建設しない限り、研究する意味がないと言われることです。一方で、2030年の原発稼働ゼロを目標にする限り、炉型を問わず原発の新設はしないことが前提となり矛盾するものです。これはかつての原子力船「むつ」の二の舞になるだけです。
もんじゅは放射性廃棄物の減容に寄与すると、新たな言い訳が付けられるようになりましたが、これは研究続行のために無理やり付け加えられた理屈と言えます。そもそもどの程度の効果があるのか、冷静な議論をすれば、期待するほどの効果は得られないとの結論になるでしょう。しかし肝心の「革新的エネルギー・環境戦略」は、政権が代われば、また振り出しに戻るかも知れません。
もんじゅ開発に政府はこれまで9600億円以上の資金をつぎ込んできました。東海再処理工場やMOX燃料加工、常陽など高速増殖炉関連の開発を含めると、1兆7千億円に達します。実用化の見通しのない開発に膨大な予算を支出し続けることは、とりわけ福島原発事故の後では、到底許されません。このまま動かさずに廃炉にし、高速増殖炉開発から撤退するべきです。
福島燃料プール危機の教訓
全国の原発でプールから乾式に
福島第一原子力発電所の事故がもたらした使用済み燃料貯蔵プールの危機状況は、全国の原発の使用済み燃料をできるだけ早くプール貯蔵から自然対流空冷方式の乾式貯蔵に移すべきだということを示しています。
福島第一の使用済み燃料の状況
福島第一原発には、三つの種類の使用済み燃料貯蔵施設があります。①原子炉建屋の高い所にあるプール(それぞれの原子炉にある)。②共用プール:各号機のプールの使用済み燃料を降ろして入れる。③乾式貯蔵施設:円柱状の容器(キャスク)に入れて貯蔵する方式。(現在はキャスク9基が貯蔵。欧米では一般的となっているこの乾式貯蔵方式の施設を持っている日本の原発は福島第一の他は、東海第二原子力発電所のみ)。
福島原発4号機は、3.11の地震・津波発生当時、定期検査のため運転停止となっており、炉心は空の状態で、炉の損傷による事故の心配はありませんでした。しかし、そのプールには、事故の直前に炉心から取り出したばかりの発熱量・放射能の大きな全炉心分の燃料集合体548体を含め、1,331体の使用済み燃料集合体がギュウギュウ詰めの状態で入っていました(この他に新燃料が204体)。このため、冷却水が失われた際に、空気の流れによる冷却が効きにくく、核分裂生成物の崩壊熱によるジルカロイ製の燃料棒被覆管の発火の可能性がそれだけ高くなります。また、発火事故で放出される放射能の量も大きくなります。それで4号機のプールの安全性が事故直後からとりわけ心配されていました。余震を心配する反原発グループが地震や水素爆発で弱体化した4号機のプールから早急に使用済み燃料を運び出せと要求しているのもこのためです。
一方、海岸に近い乾式貯蔵建屋は津波で破損しましたがキャスクは無事でした。自然空冷なので冷却に問題はありませんが、壊れた建物からキャスクを移動する必要があります。中の408体の検査はこれからです。
プール内にある燃料の移動計画
東京電力の計画はこうです。
【各原子炉の使用済み燃料を地表レベルの共用プールに移したい。各号機にあるのは、新燃料も入れて現在合計3,106体(7月18~19日に4号機の新燃料2体の運び出し実験)。ところが、容量6,840体の共用プールには6,377体あってほぼ満杯。そこでまずは、共用プールの使用済み燃料を乾式キャスクに入れ、仮置き場に移す。仮置き場には、乾式貯蔵建屋のキャスクも移す。共用プールへの移動は、4号機、3号機、1~2号機の順に行う。
仮置き場は、再処理中止を決めたドイツで2000年代半ばに一部の原発で使われたのと同じ暫定貯蔵用コンクリート・モジュール方式を採用。キャスクを1基ずつコンクリートの「箱」の中に横置きに収め、全部で65の「箱」を設置。11月14日発表の東電の計画では、仮置き場の使用は来年3月に始まり、共用プールからの移動は、2014年5月に終わる。4号機からの共用プールへの移動開始時期を決めるのは受け入れプールの状態ではなく、クレーン建設工事の進捗状況。これは、元々あった原子炉建屋の天井のクレーンが事故で破壊されてしまっており、いわば外付けのクレーンを建設する必要があるため。12月3日の発表によると、4号機からの移動開始が来年11月。終了が2014年末。】
他の原発でも早急に乾式貯蔵を
米国では、9.11同時多発テロ事件の後、テロにより使用済み燃料プールの冷却材が失われれば、ジルカロイの発火事故をもたらし得るとの警鐘が鳴らされました。炉からの取り出し直後は発熱量が大きく水で冷やすほかないが、5年ほど経って空冷が可能となったものは乾式に移して、プールの燃料の貯蔵状態に余裕を持たせるようにとの主張です。
原子力規制委員会の田中俊一委員長も、各地のプールについて、「私はどう考えても、乾式タイプの容器に入れるのがより安全だろうと思う」から、乾式への移行を要請したいと述べています。安全確保のための措置ですが、実現すれば、使用済み燃料の置き場がないから青森の六ヶ所に送って再処理するしかないとの再処理推進の論理も崩れることになります。
(田窪 雅文:ウェブサイト核情報主宰)
勢いづく韓国の脱原発運動
高野 聡
2012年1月に衝撃的なニュースが飛び込んできました。76万5000ボルトの高圧送電塔が建設中のミリャン(密陽)でおじいさんが焼身自殺をしたというものです。この送電塔は建設計画中のコリ(古里)原発5、6号機で生産される電気を大都市へ送るためのもので、ミリャンでは激しい反対闘争が7年前から繰り広げられてきた中でのご老人の死は、韓国の強力な原発推進政策によって引き起こされた悲劇とも言えるでしょう。
福島第一原発事故以降、韓国の脱原発運動の勢いは衰えることなく、特に懸案事項を抱える地域では激しく闘争を行っています。現在の韓国の脱原発運動を振り返ってみたいと思います。
コリ原発とウォルソン(月城)原発の寿命延長問題
2月9日に定期点検中だったコリ1号機が作業員の手違いと機械の故障が重なり、全電源喪失を12分間起こし、その間に21度もの温度上昇を引き起こすという事故を起こしました。しかし、韓国国民がこの事実を知ったのは3月13日でした。
コリ1号機は1978年に運転を開始し、2007年に寿命を迎えたのですが、10年間運転が延長されました。運転以来129回の故障や事故を起こしています。反対運動の最中、こんな大きな事故と隠蔽が重なり、住民は再稼動阻止と閉鎖を求めて激しく闘うことになります。
3月には地域住民と全国から応援に駆けつけた人とで、コリ原発を囲むヒューマンチェーンを敢行し、査察に入った国際原子力機関(IAEA)に反対する脱原発文化祭も開催しました。結局8月6日に原発を管轄する知識経済部がコリ1号機の再稼動に踏み切ります。再稼動は阻止できなかったですが、地域住民は9月から1ヵ月以上プサン市庁前で篭城闘争を行い、閉鎖を求める運動を継続しました。
またウォルソン原発1号機も2012年11月20日に寿命の延長を迎えます。原発の前でリレー形式での1人デモを現在まで続けています。最近、寿命延長が困難な点が2つ指摘されました。1つは「非常時冷却系等熱交換器」が1台しかない点。2つめは原子炉内の「水素監視器」が設置されていない点です。熱交換器に関しては、91年の基準改定により2台ないといけないことになっています。しかし82年運転開始のウォルソン1号機は1台しかなく、もう1台設置しようにも「原発の設計の根幹を揺るがす変更が必要なので追加の設置は不可能」と原発を運営する公営会社「韓国水力原子力」(韓水原)は説明しています。水素監視器も福島事故の教訓を踏まえ、新しい原発には設置をする方針を出しましたが、ウォルソン1号機に設置しようにも1年近くかかるため、安全性に懸念が生じています。そのような中、ウォルソン1号機は9月と11月に故障を起こし、現在運転を停止しています。しかし韓水原や知識経済部は原発の閉鎖の方針を出していません。
原発の誘致に反対して闘争
2011年の12月23日に韓水原がカンウォンド(江原道)のサムチョク(三陟)とキョンサンプクド(慶尚北道)のヨンドク(盈德)を新規原発の候補地に選定し、知識経済部が2012年の9月に正式決定しました。
これに対し、両地域は反発、特にサムチョクではカトリック教会と地域住民が結束し、原発を誘致したキム・デス市長のリコール運動を展開します。リコールはサムチョク市の6万705名の有権者の15%以上の署名を集めたことにより、投票の実施が確定されました。10月31日に運命の投票が行われました。投票は有権者の3分の1以上が投票しなければ開票されないのですが、投票率は25.68%で、基準を満たしませんでした。
残念ながらリコールは成功しませんでしたが、原発反対闘争委員会のイ・グァンウ企画広報室長は「90年代にも政府はサムチョクを新規原発の候補地に選定したが、6年余りの強い反対により計画を撤回させた。先輩たちが闘い、原発のないサムチョクを守ったように私たちも退くつもりはない」と述べています。
大統領選の結果で今後の展開が大きく変わるかもしれません。野党第一党のムン・ジェイン候補は原発の寿命延長不可と建設計画中や新規の原発不認可を掲げているからです。彼が大統領になれば少なくともこれらの問題は大きく前進するでしょう。しかし、韓国がいつまでに原発を全廃するのか、どのようなエネルギーを推進するのかなど大きな枠組みはまだ不透明です。